アメリカのイラン人宅の夕食。フェセンジャーン(柘榴と胡桃のシチュー,手前右・左奥),ゴルメサブズィー(香草のシチュー,手前左・右奥),ターディグ(おこげつきライス,中央),ニンニク入りヨーグルト(下)
村山 木乃実
(2025年4月特任研究員着任)
2012年の夏,初めてイランを訪れました。学部2年生の,ペルシア語もおぼつかない私を,イランで知り合った人たちは皆快く,あたたかく迎え入れてくださいました。このような,文化や地域を超えて大切にしてもらえた体験が,研究の道に進むきっかけとなりました。
現在は,宗教学とペルシア文学を横断する視点から,イスラームに軸を置きながらも西洋の知識や古典文学をも取り入れた,現代イランの宗教的知識人の思想を主に研究しています。博士課程では,1979年のイラン・イスラーム革命のイデオローグとして知られるアリー・シャリーアティーの思想を,彼の文学作品の分析を通じて研究しました。シャリーアティーの文学作品には,彼の深い自己理解と特定の宗教の枠組みを超えるような宗教理解が表れていました。博士課程後は,彼の思想的後継者として位置付けられる知識人,アブドゥルキャリーム・ソルーシュの思想を主に研究しています。
イラン革命以降,多くのイラン人が国外に亡命しました。ソルーシュもその1人で,現在はアメリカで活動をしています。2022年の冬に,彼に初めて会うことができました。とても有名な人物なので,緊張しながら会いに行きました。ところが,いい意味で私の期待は裏切られました。彼も,これまで私が会ってきたイラン人と同じように,いやそれ以上に,おおらかに温かく私を迎え入れてくれました。現在私を研究へと突き動かす大きな原動力は,彼の思想をより深く理解したいという気持ちです。
2025年1月,ソルーシュにインタビュー調査をするために再びアメリカを訪れました。そこで彼の友人宅で夕食をごちそうになりました。夕食のテーブルには,私の大好物のフェセンジャーン(柘榴と胡桃のシチュー)と,ゴルメサブズィー(香草のシチュー)が並びました。あまりに美味しかったので,私は鍋1つ分をほとんど1人で平らげてしまいました。感謝の気持ちを込めて,ペルシア神秘主義叙事詩『精神的マスナヴィー』で出てくる言葉「大食症」(満腹感が得られずに食べ続けてしまう病気)を使い「あなたが作ってくれたフェセンジャーンを食べるとき私は大食症になります」と言いました。それを聞いた皆は大笑い。ソルーシュも涙を浮かべて笑ってくれました。このようにイランの人たちと貴重な時間を過ごすことができるのも,研究の大きな魅力だと思います。
最近では,宗教的知識人が「ペルシア語のクルアーン」と呼び,その解釈に取り組む『精神的マスナヴィー』についても,比較宗教学の視点から研究を進めているほか,イラン映画,ジェンダー,日本における中東表象についても関心を広げています。また,人文学に関わるデーターベース構築の方法やデジタル人文学についても勉強しています。今回,TUFSフィールドサイエンスコモンズ特任研究員として迎え入れていただいたことに感謝しつつ,さまざまな学びを深め,研究に全力で取り組んでいきたいと思っています。
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