近藤 洋平
(2015年4月特任研究員着任)
私が最初にイスラム世界に関心を持ったのは,大学1年生の夏(春)学期のことでした。「自分が関心のある分野に関係する邦語文献をすべて集めなさい」という必修科目の課題が出され,初期イスラム史に関する文献を集めることにしました。この選択をした動機は忘れてしまいましたが,おそらく中東北アフリカ地域に関する講義への出席などを通じて,この地域への関心をもったのでしょう。当時はまだインターネットを通じた文献検索に限界があったため,図書館へ行って,ある文献の巻末の文献一覧に目を通して,そこから別の文献を手に取る,という地道な作業をおこなったことを今でも覚えています。
そして私が同地域の思想に関心をもったのも,大学1年生のことでした。2001年9月11日の火曜日,台風による大雨のなか,自動車運転の仮免許試験を受け,帰宅し,夜テレビ番組をつけると,ニューヨークの世界貿易センターに,旅客機が突っ込んだ模様が流れていました。特に生中継でみた,2機目の旅客機がセンターに突っ込んだ様子は,今でも眼前に鮮明に浮かびます(次の日新聞を眺めつつ,バイト先のイタ飯屋の店長と「この先世界はどうなってしまうのだろうか」と話したことを今でも覚えています)。
その後の報道で,この米国同時多発テロ事件にはイスラム教徒が関わっていることなどが詳しく紹介されるようになり,私の中東北アフリカ地域,そしてイスラムへの興味も高まっていきました。しかしながらそれがなぜか自分でもわかりませんが,私にはイスラムあるいは関係地域の現代的状況への関心よりも,「イスラム教徒はいったい何を考えてきたのか」という歴史的,また思想史的な関心が生じました。卒業論文では哲学について,修士論文では神学について,そして博士論文では神学的・法学的議論を扱いましたが,それらのテーマを選んだ動機には,これまでの1400年の間にイスラム教徒が生み出した思想の,歴史的究明というものがあったからです。
2015年を迎えてすぐ,日本ではいわゆる「イスラム国」などに関連した中東北アフリカ地域についての報道が,連日お茶の間に提供されています。残念ながら私の研究は,刻々と変化する現在の同地域の情勢を理解するための情報を,提供することはできないかもしれません。しかしながら,イスラム思想の歴史的究明というこれまでの動機を,引き続いての自らの研究推進の動機として持ち続け,そして良い意味で多くの人びとに参照され,彼らのイスラム世界への理解に資するような成果を,勤務先であるベイルートの地から発信していければと思っています。
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