錦田 愛子(2010年4月助教着任)
4月より助教として,ふたたびAA研に務めさせていただくことになりました。ちょうど1年前に去ったばかりの場所に,違う立場で戻ってくることができたのも,何かのご縁だと感謝しております。どうぞよろしくお願いいたします。中身のある研究を続けるには強い意志と努力が必要と実感する今日この頃ですが,始まりは意外にこうしたご縁によるところが大きいのかもしれません。少なくとも,「中東地域研究」としか呼べない現在の自分の専門状況は,この不確定性によるところが大きく,ここではその経緯の説明で自己紹介に代えさせて頂きたいと思います。
法学部に進学した当初の私は,入学当初の志どおり,司法試験を受けて弁護士になることを目指していました。法律予備校に通うことを検討したり,知り合いの弁護士のところでアルバイトをさせて頂く相談をしたりもしていました。ですがそんなとき,ふと目に飛び込んできたのが卒業した高校の同窓会報でした。母校の先生が,NGOの活動見学にパレスチナへ行ってこられたとの体験談。危険な紛争地というイメージと,そんな場所へ行けるのだ,という驚き。「私も行ってみたい」という気持ちが,すべての原動力となります。親の反対を強硬に押し切り,私の初海外旅行の行先はイスラエル/パレスチナとなりました。
大学で学ぶべきことを法律以外に見つけた私は,とりあえず修士課程に進むことにしました。受け入れは,中東和平交渉をゼミのテーマに設定されていた五十嵐武士先生にお願いしました。先生の体調不良で,指導教官を藤原帰一先生に引き継いで頂いた後,しばらくは欧米中心の国際政治を勉強していたのですが,進学を考え始めた頃,次の出会いが訪れました。大学院の先輩にあたる千葉大学の石田憲さんから,文部省の新プログラム方式の「イスラーム地域研究」を紹介いただいたのです。パレスチナを含む中東,イスラームを専門とする研究の世界は,私にとって新鮮でした。大学院の授業に特別講師でいらしていた小杉泰先生からイスラーム国家論を教わり,政教分離ではない政治システムの可能性を知りました。欧米文化以外に根ざした政治や社会の理解の枠組みでものごとを見るという視点の獲得には,認識世界を解放される感覚を覚えたものです。
臼杵陽先生のもとで博士課程に進学した後は,怒濤の日々でした。「9.11」の余波に翻弄されるうちにヨルダンへの留学が決まり,帰国後は博論提出,就職活動。そんな中,数度のご縁をいただいたのはAA研でした。先輩からのお勧めで受講した研究セミナーでご指導いただいた先生方とは,翌年から同じ職場で働かせて頂くことになりました。セミナーの際,はじめてAA研の扉をたたく背中を押したのは,大塚和夫先生のご指導を直接受けたいという気持ちでした。あれから3年半。大塚先生に結んでいただいた貴重なご縁を,大切にさせて頂きたいと思っています。
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