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サルときどきヒト、なフィールドワーク


川添 達朗
(2019年10月研究機関研究員着任)

 「北を目指せ。地形を読め。」私の初めてのフィールドワークは、一足先にフィールドに入っていた先生からの簡潔なメモ書きから始まったのを今でもよく覚えています。山歩きをしたことがなかった私が最初に始めたことは、地図の読み方、コンパスの使い方、道なき山を歩き回る体力と技術を身に着けることでした。北を目指せといわれた言葉通りに、地図を片手に一人で北を目指し、道に迷い、一人で必死に尾根を這い上がった先にサルを見つけ、そこから彼らとの付き合いが始まりました。最近では、集中的な調査に行く機会は少なくなってきましたが、15年にわたってニホンザルや、中国のシシバナザル、アカゲザル、チベットザル、フランソワルトンなどいろいろなサルを研究の対象としてきました。

 サルの調査は基本的に夜明けから日没までひたすらサルについて歩き、行動を記録していくという、昔ながらの地道な調査です。最近ではGPSやテレメトリー発信器、センサーカメラを使うことは珍しくありませんし、DNA分析やホルモン分析のようなラボワークを組み合わせることもありますが、双眼鏡とフィールドノートが相棒なのは今でも変わりません。サルのフィールドワークがヒトを対象としたフィールドワークと大きく違うのは、調査対象と会話でのコミュニケーションが取れないということです。主な調査地としている金華山は太平洋上のほぼ無人島のような環境です。長い時には3カ月近く誰とも会わず一人で調査することがあります。こうなってしまうと、会話する相手もおらず、返事をくれないサルに一方的にしゃべりかけながらメモを取る、怪しげな調査スタイルが確立されます。周囲に人は誰もいないので気にすることもないのですが、サルに奇怪なものを見るような視線を向けられるとちょっと恥ずかしくなることもあります。

 もちろんフィールドではサル中心の生活になりますが、一緒に調査する人や調査地で生活している人とも付き合う時間も長くなります。調査地が違えば、出会う人も話す言葉すらも変わります。九州出身の私は東北の言葉になじむのに2年くらいかかりました。中国では同僚の外国人研究者とは英語、調査地のガイドやインフォーマントとは片言の中国語とボディランゲージ、筆談で何とか乗り切ってきました。言葉が通じないフィールドで一番頼りになるのが酒とタバコです。きっとこれは世界中どこに行ってもそうでしょう。タバコを差し出せばその意味は理解してもらえますし、深夜まで言葉もよくわからないまま酒を酌み交わし笑いあい、翌日には二日酔いの重い体を引きずりながら、「好(よう!)」とあいさつしてまた一日が始まります。

 いろいろなサルや人との出会いはいつも刺激と魅力にあふれていました。ここ東京は私にとって5カ所目の住処、東京外国語大学は4カ所目の大学です。この新しい場所で新たな人たちとの出会いを楽しみに研究を進めていきたいと思います。


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