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新任スタッフ紹介 69

流れに掉さす(あるいはBendera hufuata upepo)

古本 真
(2021年4月特任研究員着任)

周りを見渡してみると、大学院に進学するのは何かしらの形で言語学に魅せられて、という人が多いような気がする。じゃあ、自分自身もそうかというと、全然そんなことはなくて、学部生の頃はただ無為無策に日々を過ごしていた。3回生にあがるタイミングで言語学を専攻したのも、第一希望だった社会学がその年たまたま定員を設定していたからに過ぎない。おそらく、自分と同じように社会学がどんな分野かも知らずに「社会学」という響きだけで適当に専攻を決めようとする輩が多かったのだろう。単位取得のために言語学の授業を受けはじめたが、正直に言ってその魅力はまったくわからなかった。3回生も後期にさしかかると、周囲に流されるように就活を始めてみたが、働き先を探すために頑張る意味を理解できなくて、早々にドロップアウトしてしまった。時間稼ぎのつもりで4回生の間は休学していたが、そのタイミングで、先に大学院に進学した友人が「勉強会をやっているから、暇だったらおいで」と声をかけてくれた。言語学は少しおもしろいかもしれないと感じたのは、この勉強会に参加したときだったように記憶している。大学卒業後はフーテンにでもなろうかと思っていたが、「就職しないならせめて進学でもしてくれ」と母親に泣きつかれ、大学院を受験してみたら合格したので大した意欲もなく進学を決めた。

なんとなくアフリカに興味があったので、スワヒリ語の授業は学部生の頃から受講していた。研究テーマをどうしようかと考えあぐねていたところ、「ザンジバルでマクンドゥチ方言でも調べてみれば」とスワヒリ語の先生からザンジバルに行くチャンスを頂いた。当初、スワヒリ語の方言に興味はまったくなかったのだが、実際に話者に会って話してみると、わからないことだらけで、そのわからないという苦しみから抜け出そうともがいているうちに研究テーマが決まっていった。

修士論文執筆のための調査は、街に住む話者に協力してもらっていたが、博士課程に進む頃には、果たして彼が教えてくれるような言語が実際に話されているのだろうか、という疑問が頭をもたげるようになっていた。調査許可取得の際に仲良くなった公文書館の職員に相談したところ、ほうぼうに掛け合ってくれて、結果、マクンドゥチに暮らす彼女の義兄の弟が受け入れてくれることになった。それらしい調査ができるようになって、研究が少しおもしろくなってきたのはこのあたりからのような気がする。

自己紹介ということで、自分がいかにして研究の世界に迷い込んだのかを振り返ってみた。我ながらまだ生きていることが奇跡に思えるくらい放蕩な人生を歩んでいるとしか言いようがない。ずいぶん多くの人にお世話になり、そして迷惑をかけてきた。この恩をすべて返すことなど到底できることではないが、それに少しでも報いるような仕事ができればと考えている。


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