エジプト・カイロのショーウィンドー(筆者撮影)
後藤 絵美
(2021年4月助教着任)
現代のイスラームの理解や実践を支える構造を明らかにしたいと思いながら研究をしています。始まりは、今から四半世紀前に東京外大のペルシア語学科に入学したことでした。ペルシアという言葉の響きに憧れて、その言葉がどこで使われているのかも知らないままに受験しました。はじめからイスラームに興味をもっていたわけではありませんでした。現地の人々の生活や文化に関心を持つなかで、それに影響を与えているらしい「イスラーム」なるものを理解したいと思うようになりました。
とくに不思議だったのが、中東地域やその他のイスラーム圏の女性たちの装いでした。学部時代に短期留学をしたイランでは、国籍や宗教を問わず、国内の女性すべてが「イスラーム的なヴェール」(具体的には、ゆったりとしたコートと頭髪を覆うスカーフ)を着用することが義務づけられていました。イランに滞在している間、私もそのルールに従ったわけですが、イスラームではなぜ、女性にヴェールをまとわせるのだろうと疑問に思いました。その後、トルコやチュニジア、エジプトなど、各地を訪れる機会を得て、ムスリム女性の装いが、実はかなり多様であることを知りました。ヴェールをまとわない女性もいれば、手袋や顔覆いを用い、素肌は一切露出しない女性もいました。いったいイスラームでは女性の装いについて、何がどこまで決まっているのだろうかと考えるようになりました。
博士課程の間に留学したエジプトで、文献資料や音声・映像資料を渉猟する中で、「その答えはいろいろある」ということが分かってきました。さらに、いろいろある答えの中でも、時代によって、とくに支持者が多いものがあるということも見えてきました。たとえば、2000年代半ばのエジプトでは、女性は顔と両手を除いて全身を覆うことがイスラームの義務であるという考えが主流になっていました。では、こうした考え方が広がったのはいつからで、どのような経緯があったのか…。こうしてイスラームの理解や実践について、その「神秘のヴェール」を一枚一枚はいでいくという作業をしてきました。
装いの他にも、ジェンダー(男女のあり方と役割に関する考え方)や食文化(ハラール食品産業)などの事例を通して、イスラームでは何がどこまで決まっているのか、誰がそれを決めているのか(神か、人か)、そこにどのような変化が見られるのかといった点を考察してきました。地域も、中東だけでなく東南アジアや欧米にも目を向け始めています。過去の議論や各地で現在進行形の議論相互の繋がりは複雑です。加えて、イスラームの理解や実践に関与しているのはムスリムだけではないということも分かってきました。今回、AA研のスタッフの一員として迎えていただけたことに感謝しつつ、今後も研究に邁進したいと思っています。これからどうぞよろしくお願いいたします。
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