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ベトナム(語)との出会いからこれまで

安達 真弓
(2016年12月特任研究員着任)

学部生の時に参加していた社会言語学のゼミで,「移民の言語」について調べるレポートが課されたことがありました。私は図書館でまず,「オーストラリアにはベトナムからの移民が多い」と書いてある文献を見つけました。そして,さらに調べていくうちに,日本にも多くのベトナム人が居住していることを知りました。ベトナム戦争の歴史を知っていれば自明のことなのですが,それまで戦争や難民についてあまり考えたことのなかった私は,テレビで見たことのあるベトちゃん・ドクちゃんと,今私と同じ場所に住んでいるベトナムの人々とのつながりを「発見」し,衝撃を受けました。

修士課程において,まずは身近なベトナム人と知り合いになろうと,都内の小学校の国際学級においてボランティア活動を始めました。そして,その学級に通うベトナム人児童3名による日本語の習得過程を記録し,修士論文にまとめました。2年間のビデオ撮影に付き合ってくれた,現在は20代になっているであろう当時の小学生に対しては,懐かしさと感謝の気持ちでいっぱいです。

博士課程に入り,次は神奈川県のベトナム系住民が多く生活する地域の日本語教室においてボランティアを始めました。地域の秋祭りや教室主催のスキー合宿などに参加し,学習者とも顔馴染みになった頃,言語意識に関するアンケート調査を実施しました。その結果,親世代の移民1世は子どもに日越バイリンガルになってほしいと希望しているものの,子世代の移民2世は急速に日本社会に同化し,主に日本語を用いて生活していることが分かってきました。この時,ベトナム語の使用や意識に関するさらに詳細な調査を行うためには,自らのベトナム語能力を高めることが必要であると考え,2年間ベトナムに留学しました。そして現地でベトナム語を学ぶうちに,移民の言語だけでなく,本国で話されているベトナム語を研究することにも興味を惹かれ始めました。

留学生活を送る中で,ベトナム語の指示詞と文末詞と感動詞は同じ形をしているものが多いことに気付き(例:Đấy, đấy là sự thật đấy!「ほら,それは事実だよ!」),それらの共通点と相違点を整理することを博士論文のテーマとしました。データの1つとして,ハノイ在住のある家族の夕食時の会話を録音したものを分析しました。写真はその夕食時の様子です。博論執筆中は,指示詞・文末詞・感動詞について考えることも勿論面白いと思ったのですが,「鶏肉を煮すぎて皮が破れてしまった」とか「このサラミはフランスのお土産だ」といった日常の雑談を書き起こす作業もとても楽しく感じました。

ベトナムとの出会いは本の中でしたが,まさかここまで長く濃い付き合いになるとは思ってもみませんでした。今後も本国ベトナムと神奈川の日本語教室の両方に足を運び,そこで話されている言語とその背景についての理解を深めたいと思っています。


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