佐藤 将
(2021年4月研究機関研究員着任)
日本において数多くある社会問題の中で少子化問題はまだまだ課題の残る問題です。何故解決が進まないのか?私は2つの視点からの検証が不足しているからと考えています。1つは兄弟数です。近年では1人っ子世帯が増えており,2人目の子どもが産みにくい要因とそれを踏まえた産みやすい環境づくりの必要性が迫られているからです。もう1つは地域差です。居住環境が異なる地域ごとに同一の政策を行うのではなく,地域事情に即した政策を行うほうがニーズに見合った政策が実現でき,出生力向上にもつながるからです。こうした背景のもと私は少子化研究を行ってまいりました。
地域差を表すツールとして私が研究で用いたものがGISです。GISとは地理情報システム(Geographic Information Systems)の略であり,位置情報をもつデータをコンピュータ上で可視化するシステムです。位置情報を付加することによって,EXCEL等の統計データを用いただけではわからなかった新たな分布傾向を発見することができます。たとえば「コレプレスマップ」,人口の多いないしは少ない自治体がどこなのかを視覚的に表す地図手法です。さらに人口の多い自治体がどこに集積しているのかを表す「ローカルモラン統計量」という統計解析と地図での可視化を組み合わせた手法もあります。これらのツールを用いて少子化研究の1事例を見ていくこととしましょう。
東京大都市圏(ここでは東京国際フォーラムを中心地とした半径40km圏のエリアを指す)を対象に子育て世帯の共働き比率が「1人目出産直後」と「2人目出産後の育休復帰後」とでどのように異なっているのかを見ていきますと,共通して東京23区内のエリアに共働き比率の高いエリアが集積していました。一方で「2人目出産後の育休復帰後」ではさらに多摩エリアにおいても高い集積が見られ,分布傾向が異なっていました。ではなぜ分布傾向が異なるのでしょうか。通勤動向の視点から要因を検証していくと,共通して見られる結果として通勤時間の短さにあることが挙げられました。一方で23区への通勤比率で見た場合,23区内は近隣エリアへの通勤となるために要因として挙げることができました。しかし多摩エリアで見た場合では23区への通勤比率は逆に共働き比率を引き下げる要因となりました。この結果から言えることは職住近接化が子育て支援策にとっては重要であると指摘できることです。職住近接化は通勤時間の短縮化に効果がありますが,これはコロナ禍によって増え始めたテレワーク業務にも効果が現れ,それは職住近接化以上です。この効果検証について今後の研究として深めていければと思います。
以上,私のこれまでの研究履歴を見ていきましたが,GISを用いて都市問題解決に向けた取り組みを行っていました。今後はこの技術を生かして人文科学の未開拓分野でGISを取り込んだ研究を行っていきたいと思います。
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