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相撲,母音調和,そして1枚の名刺が導いてくれたモンゴル語研究

植田 尚樹
(2024年4月助教着任)

2024年4月に着任しました植田尚樹(うえたなおき)です。わざわざひらがなを書いたのは,音声研究者として音声がわかる表記を併記したかったから,そしてその結果「うえだ」ではなく「うえた」だとお伝えすることができるからです。今では気にならなくなりましたが,子供の頃は「うえだ」と呼ばれるたびに「違うのにな~」という思いがありました。もしかすると,その経験から音声への興味が生まれたのかもしれません。

現在,私はモンゴル語の研究をしています。では,なぜモンゴル語なのか?元をたどると「相撲が好きだから」です。私は小さい頃からよくテレビで相撲を見ていたのですが,いつの頃からかモンゴル出身力士が活躍するようになり,何となくモンゴルが身近な存在になった気がしていました。意味も分からないままにモンゴル出身力士の本名を覚えたりしていましたが,今思えばそれがモンゴル語に触れた初めての経験でした。ちなみに,今はバトジャルガル・ムンフオリギル関を応援しています。

モンゴル語の研究を始めたきっかけは,大学のモンゴル語の授業で「母音調和」に出会ったことでした。母音調和というのは母音の配列に制限があるという現象で,例えばモンゴル語で「手」はgar,「家」はgerですが,「手から」はgar-aas,「家から」はger-eesとなり,同じ「~から」でも前に来る母音によって-aasと-eesを使い分けなければならない…というような現象です。それを知って「何これ?」と思ったのが,モンゴル語を研究しようと思ったきっかけでした。なお,私の名前には日本語の5母音が全て入っており,全くもって母音不調和です。

大学院生の時,初めてモンゴルに出かけました。ボストンバッグ1つで関西空港のチェックインカウンターに並んでいると,モンゴル人たちを見送りに来ていた日本人に声をかけられました。「この人たちはモンゴルに帰るのだが,荷物が多くて重量オーバーになりそうだから,グループということにしてくれないか」とのこと。これは怪しい。でも,見送りにきていた方が丁寧に会社の名刺をくださったので,信じてみることにしました。この選択が結果的に,私の研究者としての道を切り開いてくれました。その方に多くの人を紹介していただき,その方々のおかげでモンゴルでの調査が実現し,留学することができ,そして今でもモンゴルで定期的に調査ができています。今の研究の出発点となったのが,あの1枚の名刺でした。

さて,このたびご縁があってAA研にお世話になることになりました。AA研ではモンゴル語を中心に,広く東アジアの諸言語の音声・音韻について,音声実験や音響分析を基盤にした実証的研究を行う予定です。調査に協力してくださる方々や研究所の先生方をはじめ,多くの方の支えがあって初めて成立する研究ですので,全てのご縁を大切に研究を進められればと思っています。


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