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新任スタッフ紹介 12

仏教学と人文情報学と

松田 訓典
(2011年4月特任研究員着任)

私はインド大乗仏教の思想研究を専門としています。仏教の研究といっても様々な形での研究がありえると思いますが,一般に“仏教学”というと,仏教の伝播した各地域の言語で書かれた原典を読んだり比較したりして,そこから思想なり哲学なりを明らかにしていくということを目的としていると思います。

その中でも,私が主な研究対象としているのは,瑜伽行派(ゆがぎょうは),別名唯識派(ゆいしきは)と呼ばれる学派の文献です。瑜伽行派というのは,瑜伽(ヨーガ,瞑想行)を行う人たち,という意味で,最も有名かつ他学派および仏教外の哲学諸派から批判された学説が,唯識説(この世にはただ認識・意識しかなく,外の世界の事物は存在しない)なので,唯識派や識論者などと呼ばれています。インドの大乗仏教を形成する二大学派の一つにも数えられ,最も精緻な学説体系を築き上げたといわれることもあります。もう少し詳しくいうと,その中でも初期瑜伽行派,だいたい三四世紀から六世紀前後の文献(インドの古典語であるサンスクリット語,あるいはそのチベット語訳や漢訳)を,時に写本に遡りつつ比較検討し,そこに見られる思想を少しづつ明らかにしていこうとしています。

一方,最近は人文情報学関係のことも少しづつ勉強させていただいています。人文情報学というのは比較的新しい学問領域で,文字通りには人文学と情報(工)学とが連携して様々な側面からの研究を行っていくものといえるのではと思います。もちろんこのような取り組み自体はこのAA研をはじめとして以前から各地で行われてきたものですが,そうした流れを一つの学問分野として,さらなる飛躍を目指したものではないかと思います。欧米でのDigital Humanities分野の発展もありますし,日本でも様々な形での取り組みが行われているようです。

現在こちらの方面では,フランス語の仏教辞典『法寶義林』の半ば辞書的な性格をあわせもつ目録のデータベース化のお手伝いをさせていただいています。このデータベース化の特徴の一つは,データ構造としてTEI/XMLによるマークアップを利用している点です。TEI/XMLというのは欧米を中心に広く利用されているXMLベースのマークアップの一種で,Text Encoding Initiative(http://www.tei-c.org/)というところで策定されています。単純な目録データベースであればXMLを利用する必要はなかったのですが,様々な関連データベースとの連携や柔軟な運用への展開を期待して,今回TEI/XMLを採用することになりました。 とこのように現状では,二つの方面での研究は少なくとも直接的には関わっていないように,自分でも思えてしまうのですが,実際にはいろいろな点で気づかされる部分も少なくありません。今後は両面を活かせる形での研究を進めていきつつ,AA研IRCの活動に少しでも貢献していければと思っています。


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