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新任スタッフ紹介 47

キリマンジャロでの言語調査と1998年に見た憧れ

品川 大輔
(2016年4月准教授着任)

私が初めてアフリカ大陸に足を踏み入れたのは,2000年の夏のことでした。言語学的な研究資料が残されていない言語を記述することが目的で,私にはカヘ語という言語の調査をするというミッションが与えられていました。タンザニアに入国してまずクリアしないといけないのが,調査許可の取得です。必死に書いたプロポーザルがあっさり蹴られ,気晴らしにローカル・バーに行ってはビール片手に先輩方と語り合ったものでした。やっとのことで手に入れた調査許可証を握りしめ,今度はひとりキリマンジャロ山の麓の町に辿り着くと,カヘ語の話者に出会うことができないという次なる困難が。未熟な調査能力のために聞き取りや分析に苦労することは覚悟のうえでしたが,調査が始まる前に壁にぶち当たるとは思ってもいませんでした。途方に暮れながらも,たまたま出会った現地の若者たちの助けで,やはり未記述であったルヮ語の話者に出会うことができました。現在でも私の中心的なフィールドであるキリマンジャロ周辺には,十分な記述が行われていない言語がまだまだあったというわけです。

10年近くをかけてルヮ語の記述研究を博士論文にまとめたあとは,そのようなキリマンジャロ周辺の未記述言語を横断的に調査していきました。シハ語,ウル語,そして2014年の言語研修で扱ったロンボ語。これらの言語は,系統的にも近く,構造的にも大まかなところでは共通点が多いのですが,よりミクロな視点で分析を進めていくと,さまざまな点で類型論的に有意な差異が見い出される。これまでの研究では,これらキリマンジャロ・バントゥ諸語内部の類型的な多様性と,その類型を規定するパラメータ間の連動関係を分析してきましたが,今後は海外の研究者とも連携しながら,分析対象をバントゥ諸語全体に拡げることで,バントゥ語学,ひいては言語類型論一般に貢献するような新たな知見を生み出す研究を進めていこうと考えています。

ところで,私が初めてAA研に足を踏み入れたのは,1998年の夏,言語研修「フィールドメソッドによるハヤ語研修」を受講したときのことでした。世界にはその詳細が十分に解明されていない“未知の”言語がまだまだあって,そういった言語が話されている土地に行って,現地の人たちに教えてもらいながら一からその全体像を明らかにしていくというフィールド言語学との出会いは,20歳になったかならないかの私を瞬時にして魅了してしまうような衝撃でした。それからほどなくして,研究室の扉に貼ってあった言語研修のポスターがさらなる決定的な衝撃を与えました。扉の前に立ちつくし,ポスターの内容に釘づけになったあの興奮が,研究の道に進むことになった私の原点だと思っています。そして,その道を走ってきた果てにまたAA研に辿り着いた今,かつて思い描いていたロマンにどこまで迫ることができるかという挑戦の場を与えられたのだということを強く感じています。


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