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新任スタッフ紹介 65

「ふるさと」のことば



調査で訪れた、オーストラリアの
リトルサイゴンにある門(2019年2月)

安達 真弓
(2020年4月助教着任)

 このたび助教として着任いたしました、安達真弓と申します。本国ベトナム、及び在日ベトナム系コミュニティにおいて話されているベトナム語について研究しています。2016年より2019年まで特任研究員としてお世話になっていたAA研に再び戻ってくることができ、大変嬉しく思っています。ベトナム語研究に進むことになったきっかけについては、特任研究員着任時にお話しさせていただきましたので、よろしければこちらをご覧ください。

 前回私がAA研に在籍していた2016年から2019年までの3年の間にも、日本に在住するベトナム人の数は20万人から37万人へと、大きく増加しています。その理由の一つとして、留学生や技能実習生として来日するベトナム人が近年増えていることが挙げられます。これまで日本には、ベトナム戦争後に難民として来日した定住者コミュニティが存在していましたが、そこに新たに中・長期的に滞在するグループが加わることによって、日本のベトナム系コミュニティは今二極化していると言えるかもしれません。それぞれのグループが話すベトナム語にはどのような特徴があるのか、アメリカやオーストラリアなど他のベトナム系コミュニティとも比較しながら、調査を続けたいと思っています。

 ところで、私は中国山地の山あいの、岡山県新見市というところで生まれ育ちました。岡山で過ごした年月よりも上京してからの時間の方が長くなってしまいましたが、家族や地元の友人たちとよく電話をするためか、今も比較的よどみなく岡山方言を話すことができます。先日友人の結婚式のために岡山に帰省した際、ことばと所属意識の関係を強く感じる出来事がありました。他の出席者から「今日はどちらから?」と尋ねられた際、「東京からです。」と答えると、「遠いですね。」と、少し驚いたような表情をされてしまいました。その後「出身は岡山です。」と説明してしばらく岡山方言で話し続けていると段々打ち解けてきて、最後には「安達さんは東京に長ごー住んどるのに、岡山弁と岡山の魂を忘れとらん。」というお褒めの言葉(?)をいただきました。しかしながら、帰りのタクシーの中で、岡山在住の高校の同級生が、適切な話題を選びながら敬語を交えた流暢な岡山方言を駆使してタクシーの運転手さんと会話をしている様子を見て、「あぁ、私の話す岡山弁は、いつまで経っても18歳のままだな。」と、少し感傷的な気分になりました。二方言話者(バイダイアレクタル)である私が推測するに、二言語話者(バイリンガル)の人は、「ふるさと」のことばと移住先のことばの持つそれぞれの社会的な意味について、強く感じる機会がさらに多くあるのではないかと思います。今後も神奈川県内のベトナム系コミュニティなど現地に足繁く通い、インタビュー調査などを通じて、言語とアイデンティティというテーマに迫ってみたいと考えています。


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