梅川 通久(2010年9月特任研究員着任)
2009年度後期よりすでにIRCでお世話になっていますが,今期より特任研究員として心機一転,研究活動やセンター及びAA研運営への協力に励もうと考えています。どうぞよろしくお願い申しあげます。
私自身の研究テーマは,数値解析の手法を用いて社会や文化に関する諸問題を定量的に把握し,それを通じてこれまで見えにくかった様々な現象を新しい視点で説明しようというものです。この様な考え方で分野横断的な興味を持っているのですが,現在はひとつの重要な切り口として,地理情報と数理科学的分析を組み合わせた方法により,人口の分布とそれを決める社会的・自然的要因との関連を調べること及びその研究手法の確立に関して考察しています。対象は東南アジア大陸部であり,まずは関係する各国や地域の人口密度に対してその分布を決定付ける総合的要因を,様々な仮定の下でデータを数値的に直接求めよう,という所が出発点です。
数学的手法を人文科学や社会科学に適用する試み自体は古くから行われていますが,ここで私が試みている考え方では,モデル化されたものと現実の現象との比較といった,これまで一般的に行われていた手法は用いていません。その代わり,現実の人口密度の値から有効な情報を直接抽出することを考えています。具体的には,物理学などで用いられる概念である「ポテンシャル」というものを導入し,分析を行います。
ポテンシャルは,概念的な「高さ」を表す量です。例えば,実際の地形の標高はそれそのものがポテンシャルの高低でもあります。またもう少し非直感的な例を申せば,電流は電源のプラス極からマイナス極に向かって流れますが,それも電気的なポテンシャルの高い所から低い所に電流が流れるのだ,と見ることができます。人口密度についても,この様なポテンシャルが存在し,高い所から低い所に向かって力を受けてそれにより人が移動すると考えて理論を構築することは出来ないでしょうか。 人口密度に関するポテンシャルが導入できると考えた場合に,どのような新しいことが見えてくるでしょうか。ひとつには,具体的な要因が重なって最終的に得られる,人口密度を動かしてその分布を決定付ける力の様なものを,実体として把握できるのではないかと期待しています。それによって,社会的な影響,地理的な影響の評価がより正確にできれば良いと考えています。また,将来的には人口の変動や流れといった変動の時間発展を,あたかも天気予報などの様に未来に渡って記述することができるかもしれないとも期待しています。
高い完成度でそういった成果を出す為には今少し資料を積み上げたり技術的な問題をクリアしたりする必要はありますが,現地調査により各地域の個別事情を得て分析に取り込むなど,AA研で活動を行うこととなった幸運をおおいに活用し,意義のある展開を目指したいと考えています。
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