目黒 紀夫
(2014年4月研究機関研究員着任)
私が大学に入学したのは,21世紀(の最初の年)でした。大学の講義やテレビ・新聞などのメディアの報道では,「21世紀は環境の世紀」という言葉をよく耳にしました。また,「グローバル」という言葉はまだあまり聞かれなかったものの,「国際協力」「国際開発」「国際関係」など,「国際」と名のつくもの・ことが多くの学生を惹きつけてもいました。そうしたなかで,私はアフリカの野生動物保全の政策,とりわけ1990年代以降に広まってきた「コミュニティ主体の保全(community-based conservation)」について卒業論文を書くことに決めました。なぜなら,それはまさに「国際」援助のもとで「環境」問題の解決をめざすアプローチであり,「環境」の保全と地域の「開発」の両方を実現しようとするカッコいいものに思えたからでした。
私はケニア南部のマサイ社会を対象に取り組まれた「コミュニティ主体の保全」のプロジェクトの評価をしたくて,2005年からフィールドワークをはじめました。はたして「住民参加」は達成されているのか,「地域発展」は実現しているのか,そして「人間と野生動物の共存」が成立しているのか。はじめてフィールドを訪れた時に私が何よりも興味をもっていたのは,「コミュニティ主体の保全」という開発/保全プロジェクトでした。野生動物や地域社会については,知識がないという以上に関心をほとんどもっていませんでした。
そんな私でしたが,実際にフィールドワークをはじめてあらためて気づかされたのは,そこに暮らす人たちにとっての問題と,政府や援助機関,それに保全NGOや観光客が問題としていることとのあいだの大きなズレでした。それはフィールドワークをしていればよくぶつかるものだと思いますが,そこで私を長年にわたって悩ませたのは,そうしたフィールドの状況をどのように研究していけばよいのかということでした。というのも,私は学部から博士まで農学部(大学院農学生命科学研究科)に所属してきました。所属するゼミでは開発学や政策学,それに社会学や人類学の文献を読んで議論をしたりもしてきましたが,具体的にどういう手法で研究を進めるのかは各自の判断に任されていました。
これまでのところ,私は環境社会学を中心に,文化/社会人類学や開発学の議論を参照しながら研究を進めてきました。しかし,環境問題については,人類学,社会学,開発学,地理学,政策学などのあいだで,似ているようで少しずつちがう議論が展開されています。そうした文献を読めば読むほどに,果たして自分は適切な手法を選択できているのだろうかと思うこともしばしばです。ただ,最近に思うのは,フィールドの現実が複雑に入り組んでいて,どういう視点でどの側面を分析するかによってちがった風に見えてくるというのであれば,むしろそれをできるかぎり突き詰めて,どこまで多面的に一つの現場を描き出せるものか,いかに一つの同じ現場であっても多面的に見えるものなのかを試してみたいと思うようになっています。「環境」という言葉を入り口にして,現代アフリカの多面性を明らかにすることにチャレンジしたいと思います。
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