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マレーシアでのフィールドワークを通じて


河合 文
(2019年10月研究機関研究員着任)

自然環境の認識を主なテーマに、マレーシア半島部に暮らすバテッという狩猟採集民の社会で調査を行ってきました。フィールドワークを通じて、できるようになったことが多くあります。薪を組んで火をおこすこと、よく知らない道を歩く時に、特定の地点と自分との位置関係を意識しながら歩くことなどです。

木やツタの茂った森を歩く時、バテッは「右」や「左」という語を用いません。「右へ曲がって左へ進み…」とは考えずに、目印となる地点(多くは川)と自分との位置関係を意識しながら歩きます。このナビゲーションは身体感覚に基づくため、移動中に方位を表現する際は、手を使うか、口をすぼめて特定の方角を指しながら「あっち」と表します。また、「川の方」や「上流」と、川を使って表現することもあります。見通しが悪く植物の成長が早い熱帯林では、一定の場所に継続して存在する川が目印として利用されています。資源を探して森を移動するバテッの暮らしでは、こうした認識法が培われてきました。

彼らは特定の目的のために大きく環境を改変することはありませんが、マレーシアに暮らす全ての人が、そうした認識を共有しているわけではありません。調査地の村は、自然公園とアブラヤシ・プランテーションに囲まれています。自然公園は、自然保護を目的に植民地時代に設立され、プランテーションは、パーム油生産を目的に1980年頃より拡大されてきました。どちらも植民地時代に導入された土地制度に準じていますが、環境を領域的に利用する「土地」という見方は、世界的に主流となりつつあります。 こうした大きな流れがローカルな現場と交差するなかで営まれる暮らしを対象としつつ、そこから大きな流れについても理解することを、研究の目標にしています。旧植民地国家である点をふまえ、現在マレーシアで主流とされている見方についても、歴史を辿って植民地時代の影響を考察に含めてきました。現場を出発点としつつ、社会全体の潮流にも目を向けるという関心の持ち方には、故郷での経験が影響しています。

沖縄県西表島の、海の近くで育ちました。家から浜へ行くまでの白い砂利道には、季節に応じて異なる花が咲き、冬の冷えた早朝に浜へ行くと、寒さで気絶して打ち上げられた魚を拾うことも出来ました。しかしここに大型リゾート施設が建設されることになり、島外の人も巻き込んで議論が交わされました。世間の注目を集めて開発を阻止するため、この浜に関連した多様な「自然」が語られましたが、そのなかで強い違和感を抱きました。 人類学を学んだことで、少しは当時の出来事について理解できるようになりました。マレーシアの熱帯林を生きる方法についても知り、近年は環境が変化し生活様式が変わるなかで、バテッがどのように社会関係を築いているかに注目しています。アジア・アフリカ言語文化研究所で様々な方と交流し、研究を深め、発信していきたいと思っています。


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