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Introducing New Staff 75

料理から世界を表現することを学ぶ

ペルーの現代料理レストラン「セントラル」において2019年中頃に提供されていた「極限の高地」(写真はセントラル提供)

藤田 周
(2022年9月特任研究員着任)

私は現代料理について研究してきました。現代料理とは,フランス料理などの従来の高級料理をもとにしつつもその枠を越え,レストランの位置する場所の自然と文化の前衛的な表現を試みるような料理のスタイルです。私が主な調査対象としたペルーの現代料理レストラン,セントラル「極限の高地」(写真)という名の料理が提供され,これが客のもとに運ばれるときには,以下のような説明がなされていました。

「これはアンデスのクスコ県の一地域,ピサックを表現する料理です。そこでは色とりどりのとうもろこしの在来種が栽培されていますが,そのうち,4種類を,様々な形と食感にしてお出しします。白とうもろこしのチョクロで団子を,紫とうもろこしで泡を,赤いとうもろこしでチップスを作り,とうもろこしの伝統的な発酵飲料を使ったソースを添えています。アンデスの山に囲まれた,色とりどりのトウモロコシが実った畑を想像しながら召し上がってください。」

料理は,ふつう,栄養を摂取したり,おいしさを楽しんだり,人との関係を作ったりするためのものであるでしょう。対して現代料理レストランにおける料理,そのようなものとしてだけでなく,土地のイメージを喚起するものとして作られているのです。

私は現代料理を理解すべく文化人類学的なフィールドワークを行ってきました。具体的には,日本では現在ミシュランで三つ星を所持しているレストランで約1年間,ペルーでは「世界ベストレストラン50」というランキングで2022年度には世界2位の順位を獲得しているセントラルというレストランで約1年半,なかば料理人として働きました。あるときには朝8時過ぎから夜の11時ころまで,野菜の皮を剥いたり,お皿に料理を盛り付けたりして過ごしてきました。またあるときには,ペルーのアマゾン地域の食文化について調査する研究チームに随行し,アマゾンの村を訪れることもありました。

私がこのような現代料理レストランを調査することになったのは,それが料理と芸術と科学の交差点であると思ったためです。大学に入学し,一人暮らしを始めたときから,私は料理を始め,次第にそれにのめり込んでいきました。同時に,東京という場所を満喫しようと美術館に訪れるうちに,芸術の面白さに魅了されていきました。そして大学で学んだことでもっとも面白かったことの一つが,私たちが真実だとみなしている科学的な事実がどのように生まれてくるかを研究する科学人類学でした。そのような興味が合流したのが,料理であり,芸術的でもあり,科学的な探究のようでもある現代料理だったのです。

それゆえ私は,現代料理についての研究を通して,人間にとって料理とはどのようなことであるか,どのようにして芸術的なものが作られるのか,世界についての真実をどうすれば明らかにできるのか,こういった問いを考えていきたいと考えています。


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