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Introducing New Staff 16

チン族の言語―ことばの宝箱

大塚 行誠
(2011年4月研究機関研究員着任)

言語ダイナミクス科学研究プロジェクト研究機関研究員の大塚行誠(おおつか こうせい)と申します。私は,ミャンマー連邦を主な研究対象地域として,クキ・チン語支という言語グループに関する記述言語学的な調査・研究を行っています。クキ・チン語支は,チベット・ビルマ語派に属する言語グループであり,50種類以上もの言語から成ります。話者は,主にミャンマー連邦北西部とインド北東部の山岳地帯で暮らしています。ミャンマー連邦では,クキ・チン語支に属する諸言語の話者を「チン族」という民族名で呼ぶのが一般的で,チン族が住民の大半を占める「チン州」という州もあります。

私は,学部の頃にビルマ語を専攻し,ミャンマーで一年間の留学生活を送りました。留学中,多くの少数民族と出会い,様々な言語を耳にしました。多言語社会の中で暮らすうち,少数民族の言語・文化を学びたいと思うようになりました。帰国後は,少数民族の中でもとりわけ多彩な言語・文化を持つチン族に興味を持ち,クキ・チン語支の研究を始めました。クキ・チン語支の言語は互いに意思疎通が不可能なほど異なっている上,同一言語と言われていても「ひと山越えればひと言語」というように方言差もあります。このような複雑な言語事情は,言語を研究する者にとって悩みの種であると同時に,大きな魅力でもあるのです。

一見ばらばらに見えるクキ・チン語支の諸言語も言語学的なアプローチから考察すると,動詞語幹の形態や人称の標示方法などに共通した特徴を見出すことができます。ひとつひとつの言語が様々な形で存在しながらも,実は互いに繋がりを持っているという,多様性と共通性に惹かれて,クキ・チン語支の研究を続けてきました。

クキ・チン語支の言語学的な研究は,初期的な段階からようやく抜け出そうとしているのが現状です。言語学的な観点から記述した文献資料や文法書も決してまだ十分にあるとはいえません。こういった中で各言語間の繋がりを見ていく為には,音韻体系や語彙等といった断片的なものだけではなく,文法構造の細部までも見ていく必要があります。そこで,私は,博士課程に在籍中,チン州北部における共通語,ティディム・チン語の文法記述に取り組みました。

今後は,クキ・チン語支に属する諸言語を幅広く調査・研究すると共に,ティディム・チン語との対照から,どういった部分に共通点,あるいは変容が見られるのかということを調べていきたいと思っています。また,ティディム・チン語の話者が口々に言うには,最近では比較的大きな話者コミュニティーがインドのニューデリーやアメリカのタルサで形成されているほか,ここ日本の東京に生活の基盤を置く話者も数多くいるそうです。ティディム・チン語話者のダイナミックな動きにも注意を向けながら調査を続けたいとも考えています。

どうぞよろしくお願いいたします。


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