石森 大知
(2010年8月非常勤研究員着任)
わたしは,南太平洋のソロモン諸島をおもな対象として,キリスト教受容や宗教運動に関する文化人類学的研究をおこなってきました。とくに博士論文では,1つの宗教運動を取り上げ,その運動がキリスト教のロジックをいかにうまく利用しつつ,西洋人宣教団および政府と対峙してきたのかという視点から民族誌を書きました。
それと同時に,つねに気になってきたのが,紛争のことでした。ソロモン諸島では1998年末から大規模な「民族紛争」が発生しました。紛争はおもに首都ホニアラで顕在化しましたが,当然,村落部に住む人々の生活にも大きな影響を与えてきました。紛争が激しいときは調査に赴くことができず,また何かが起こると日本から知人の身の上を案じていました。現在では紛争も終結してポストコンフリクト期に移行したといわれますが,もちろんその傷は癒えておらず,政治経済的,そして社会的にも大きな影を落としています。わたしは,このような現在的状況を踏まえて,紛争以後の法と秩序の回復にキリスト教会や教会系NGOがいかに関与しているのかに興味をもっています。
ここまでが,いわば個人的な研究と致しますと,その一方で,わたしはつねに文理融合型プロジェクトのなかでの研究・調査という幸運に恵まれてきました。ソロモン諸島に初めて行ったときも,人類生態学,保健学,栄養学,農学など多分野の研究者がおられ,フィールドをともにしました。それから10年ほどが経過していますが,現在に至るまで,異なる分野の方々との共同研究を経験してきました。今夏もソロモン諸島のガダルカナル島に1ヶ月ほど行かせてもらいましたが,それも医学系研究者の方々とご一緒させていただきました。異なる視点や方法論をお持ちですから,その度ごとに新しい発見があり,フィールドにて大変に興味深い意見交換をさせてもらっています。
こうした経験のなかで,異分野の方々との「つながり」の重要性を痛感しておりますが,それをもっとヴァージョンアップしたいと考えております。というのも,自分のなかでは,共同研究のなかで異分野の研究者と融合しているという感覚はまだありません。もちろん文理融合がすぐさま可能とは考えていませんが,お互いが真正面からぶつかり合うことで,何らかの化学反応が起こるような気がするのです。ここFSCでお世話になっている間に,フィールドワークのこと,そして,いかにして同分野だけではなく異分野の研究者とつながれるのかという点をもっと考えていきたいと思っております。
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