村尾 るみこ
(2011年4月研究機関研究員着任)
私はこれまで,南部アフリカに位置するザンビア西部の農村で,隣国のアンゴラから移住してきた焼畑農耕民の生計維持について長期フィールドワークに基づく調査研究をおこなってきました。特に彼ら焼畑農耕民の移動性と生業が現状と,それが彼らの移動の歴史,ひいてはアフリカ農耕民のおかれる状況のなかでいかなる特徴をもつのかについて関心があります。
現在の専門はアフリカ地域研究ですが,学部時代は農学部に所属していました。そこで卒業研究として,東アフリカで主食作物となっているシコクビエのアルミニウム耐性の関する栽培・分析を,焼畑の土壌環境を再現しておこないました。これが,大学院でアフリカ地域研究に進んだきっかけでした。その後は農学を足がかりに「ひとまずフィールドに行って,見たことから考える」という実践的プロセスを経て,地域研究に従事してきたと思います。そしてその実践的プロセスは,学部・大学院の先生方や学友をはじめ,海外での生活もフィールドワークも初めてであった私を迎え入れてくれたザンビアの人びととの出会いから学び続けるプロセスであったといえます。
ザンビアは1964年の独立以降,安定かつ平和な政治体制が続いた国です。90年代の民主化と構造調整,南アフリカ経済の進出に伴う影響もうけながら,国家経済は銅による貿易収入を6割以上保ち,都市化が進行する一方で,大多数の国民の生計の基盤は農業であり続けました。一方で,コンゴ民主共和国やアンゴラ,ナミビア,ジンバブエ,モザンビークといった隣接する周辺国の紛争による難民・避難民を受け入れ,自国の,特に周辺部に位置する農村社会のなかに包摂してきました。そうしてザンビアをはじめ難民の世紀より平和を保ってきたアフリカ諸国の農耕民は,自国,隣国および世界情勢による多元的な影響のなかを生き抜いてきたといえます。ザンビア西部のアンゴラ出自の農耕民は,特に戦後復興と経済成長が世界的に注目されているアンゴラと密接なかかわりを持っている点で特徴的です。
こうしたことは,現地の農村に行くと,実に日常の様々な場面で,多くの人びととの出会いを通して感じることができます。場所は木の下で,台所で,村の小道で,畑で,人びとのたわいない世間話,ふとした行動,ときにはある日突然大量に運ばれてきた農産物を通じて垣間見ることができます。そうした場でわかるのは,彼らが敏感に他地域やアンゴラの情勢を察知し,ザンビアでの生活のなかで対応していることです。しかし現地で出会う人びとと話し,ときに協働し,見聞きしたことから何かを考えようとすると,必然的に農学だけでは足らず,人類学,社会学,政治学,自然地理学等と総合してアプローチすることになります。それは地域研究を進める上で苦労する点でもあり,また現地の人びとと出会い関わるなかで学ぶという魅力的な点であると思います。
こうして現在,ザンビア西部に住むアンゴラ出自の農耕民は,アンゴラでの急激な戦後復興と経済成長を感じ取り,ザンビア農村での自らの生計維持のあり方を再編成しています。今後,AA研で基幹研究「アフリカ文化研究に基づく多元的世界像の探求」に非常勤研究員として関わらせていただくにあたり,AA研を通じての新たな出会いから学びながら,アンゴラ出自の農耕民による日常の積み重ねを追究していきたいと思います。
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