ILCAA Home > Essays > Introducing New Staff > Introducing New Staff 43
Font Size : [Larger] [Medium] [Smaller]

Japanese version only.

Introducing New Staff 43

「三重県の方言アクセント」ことはじめ


調査先で撮った一枚です。とても入り組んだ地形であることが,方言にも影響を与えているのではないかと考えています。

平田 秀(2016年3月特任研究員着任)

このたび情報資源利用研究センターの特任研究員に着任いたしました,平田秀(ひらた・しゅう)と申します。三重県の諸方言,特に県南部地域の諸方言のアクセントの調査・研究を行っています。

「三重県の方言」というとき,どのようなものをイメージされるでしょうか。津市や四日市市など,三重県の北部・中部地域では,いわゆる「関西方言」とよく似たアクセントの方言が話されています。もちろん京都や大阪の方言とは数え切れないほど違いがあります。一方で,日本語アクセント研究でいう系統の面では同一の系統に属する,非常に近い関係の方言であると言えます。
それに対し,尾鷲市や熊野市など三重県の南部地方では,関西方言とは全く違うアクセントの方言が話されています。私が現在研究を進めている尾鷲市尾鷲地区の方言を例にとると,「魚」は京都や三重県北部の鈴鹿で [サカナ(高高高)であるのに対し,尾鷲では サカ[ナ(低低高)です。「糸」は京都や鈴鹿で イ[ト(低高)であるのに対し,尾鷲では [イト(高高)です。「聞いた印象」というぼんやりとした話ではありますが,両者はかなり違う印象の方言だと言って差し支えないのではないかと思います。また,系統の面でも関西方言とは別の系統の方言です。

尾鷲の方言のアクセントは,非常に複雑です。日本語アクセントの研究に用いられる用語に「式」という,「単語全体の声調」と言い換えられるものがあります。共通語に式はなく,関西方言には2種類の式があります。式があると,アクセントのパターンが式のない方言と比べて増え,パターン数の上では複雑になります。この「式」が3種類ある方言は,これまでに1つしか報告がありませんでしたが,私が調査を進めてきた中で,尾鷲の方言を正確に記述するには,式が3種類必要なのではないか,と結論を出すに至りました。複雑であると同時に,とても珍しいタイプの方言であるとも言えます。
尾鷲の方言を含む三重県南部地域の諸方言は,早い段階でどの方言がどの系統に属するのかが明らかになっています。しかし,それぞれの方言が具体的にどのような特徴をもっているかは,未解明の部分が多く残されています。これまでに何度も尾鷲市で調査を行ってきましたが,その度に新たな発見があり,新鮮な驚きとやりがいを感じています。

言語・方言の別を問わず,言葉は必ず変化するものだということは,言葉に関わる研究をしている方の共通の認識かと思います。現在話されている方言の記録を正確に残すとともに,それを観察することで得られた成果を,言語学や方言学の分野で発表していきたいと考えています。また,現地調査ではいつもたくさんの方々にご協力をいただいていますが,そうしてできあがった成果が話者の方々や地域社会の何かお役に立てることがあればと願っています。


Copyright © 2010 Research Institute for Languages and Cultures of Asia and Africa. All Rights Reserved.