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Introducing New Staff 33

フィールドとの出会い・研究テーマとの出会い

山越 康裕
(2014年4月准教授着任)

中国・内モンゴル自治区北部を調査地域に据え,モンゴル諸語の記述的研究に従事しています。とくにおもな調査地であるフルンボイル市のシネヘン村に暮らすブリヤートの人々とは15年来の交流が続いています。こうした調査地に巡り会えたのも,さまざまな縁に恵まれたおかげだと思っています。

東京外国語大学でモンゴル語を専攻した私は,よりモンゴル諸語の研究を深めたいと考え,博士後期課程から北海道大学の大学院に進学しました。外大の博士前期課程在籍中に『北の言語』(宮岡伯人編, 1992年, 三省堂)に魅せられたのがきっかけでした。北大はそれまでシベリア・極東部・北米といった北方諸言語の言語研究がさかんで,諸先輩方は各地でフィールドワークを実践していました。その後ろ姿を見て,私自身もモンゴル諸語のフィールドワークをしたいと願い,研究対象として目をつけたのが,シネヘン村のブリヤートの人々の言語,シネヘン・ブリヤート語でした。

調査地とのつながりは,偶然の出会いによって得ることができました。ロシア領内に暮らすブリヤートの一部が中国側に移住し,数千吊のコミュニティを作っているということまでは知っていましたが,当時それ以上の情報はなく,彼らが使用する言語の音韻・文法構造についても,詳細に書かれたものはありませんでした。ところが,どのように話者を探そうかと悩みつつ,外大時代の指導教官の研究室を訪ねたところ,そこにまさにシネヘン村出身の研究生が座っていたのです。彼にご家族と友人を紹介していただき,現地調査の希望が叶えられました。

初の調査は予想していたよりも難しく,話者同士の会話はほとんど理解できませんでした。しかし会話を通して動詞の屈折や吊詞の格,人称標示といった接尾辞や付属語の形態が耳に入ってくると,モンゴル語のこの形式がこちらではこうなるようだ,といったことに気づき,内容はわからないくせにわくわくして耳をそばだてて聞いていました。

会話を通して気になったのは,こうした非自立語のほかに,中国語由来の語彙が多く混じりこむということでした。対面で,質問票を通じて得られる例文にはあらわれないのにもかかわらず,母語話者同士の会話では中国語由来の語彙が多用されるのです。このようなコードスイッチングの現象はそれほど珍しいものではありませんが,総合的な文法記述にはこのような現象は取り入れられないことが多いことから,ゆくゆくはこのような状況も含めた体系的な文法記述を目指そうと思うようになりました。

言語同士の接触による変化という点に興味を持ったのも,北方諸言語におけるさまざまな研究に触れたことがきっかけとなっています。モンゴル語を学び,北の諸言語に出会う,こうした経験がいずれも自分自身の研究活動に反映されています。今後本研究所ではどのような出会いがあるのか,どのように研究活動に反映されるのか,楽しみにしているところです。


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