Part 4-2 :: Islam, Religion of Unity by Prayer

映像2:記録映像「ワズィファ」


 ヤアでは毎週金曜日の日没前に、現地で「ワズィファ」と呼ばれるズィクル儀礼(神を体験するためのスーフィーの修行法のひとつで集団的連祷を伴う)がモスクで開かれる。この参席者は、イマームおよび年長者に承認されたものに限られるなど、ハドラ小屋で開かれる祈祷集会に比べて格調高いものとして人々に理解されている。

 ズィクル儀礼は、イスラーム世界各地のスーフィー教団に広く共通するものであるが、祈祷文句や連祷回数といった事項の他に、唱和速度、調息法、身体の動かし方などの技術的方法が確立された上で教団員に共有されており、それが各地のスーフィー教団の特徴のひとつともなっている。

 ヤアで行われる「ワズィファ」では以下の順序・回数で連祷が行われる:①「ワズィファ」と呼ばれる祈祷句(30回)、②サラート・アル・ファーティフ(50回)、③シャハーダ(前半部のみ100回)、④ジャウハラ・アル・カマール(12回)、⑤「リダウ」と呼ばれる祈祷句(1回)、⑥神の名の唱和(規定回数なし)。

 ①においては「他に並び立つ神のいない永生者にして自存者たる偉大なアッラーに赦しを請う」という祈祷句が30回連祷される。②はティジャーニー教団独自の祈祷としてイスラーム世界各地に広く知られており、ヤアにおいてもモスク内外で人々に頻繁に唱えられている。③はムスリムの五行に挙げられる「信仰告白」の前半部にあたる「アッラー以外に神はなし」の箇所が繰り返される。

 人々が異口同音にその重要性を語るのは、④のジャウハラ・アル・カマールである。これは、預言者ムハンマドから教団創始者アフマド・ティジャーニーに直接与えられたと言われる重要な祈祷句である。この連祷が7度目に達すると、預言者とハリーファが祈祷者の円座に加わると言われている。ヤアで行われる「ワズィファ」で、円座の一角に常に空間が確保されるのはこのためである。その後の⑥では、夕陽が完全に沈み切るまで、繰り返し「アッラー」の名が唱えられる。

 住民や参詣者のなかには、この儀礼の開始前に会場に現れ、飲料水を汲んだペットボトルを隅に置くものもいる(写真3-8)。蓋が開けられた状態で儀礼の最後まで置かれたこれらの飲料水は、この集団的連祷に宿る霊力を吸収して「聖水」になると人々に言われているためである。この「聖水」は病気の治療に用いられたり、悪霊祓いに使用されたりもする。

上映時間:25分 製作:松波康男(2006)