Part 3-2 :: Islam, Religion of Unity by Prayer

聖者廟参詣


 スーフィズム(イスラーム神秘主義)の文脈において、ズィヤーラの語は、スーフィー聖者の墓廟への参詣行為を主に意味する。メッカ巡礼がムスリム総体としての義務であるのに対し、聖者廟への参詣行為はコーランに記述がないことなどから、絶えずイスラーム復興主義勢力らの批判の的とされてきた。だが、身体的・経済的制約などからメッカ巡礼が限定的な慣行であるのに対し、短距離の移動や旅行で立ち寄ることのできる聖者廟参詣を行う信者は多く、その総数は、イスラーム世界全体でみればメッカ巡礼に勝るとも劣らない数になるとの見方もある。

 エチオピアにおいても、ムスリム聖者廟への参詣行為は、今もなお各地で盛んである(写真3-3, 4-1)。同国で最大規模となるのは、13世紀のムスリム聖者シャイフ・ヌール・フセイン廟への参詣である。年二回の祭日には、首都アディスアベバから長距離バスや自家用車で訪れるものや、参詣者の目印となるY字型の杖を片手に参詣路を踏破する「ガリーバ」と呼ばれる国内からの参詣者(写真3-4)のみならず、ソマリア、ケニアといった周辺国からも多くのムスリムがこの聖者廟を参る。

 他にも、東部のハラール(写真3-5)や、南東部のファラカサなど、参詣者が大挙する聖者廟は各地に散見されるが、エチオピア西部における国内最大規模の墓廟が、ベニシャングル・グムズ州に位置するヤア聖者廟である。同地は、エチオピア西部におけるティジャーニー教団の普及・浸透に多大な貢献を果たしアルファキー・アフマド・ウマルを祀った墓廟である。ラマダン明けの大祭や供儀祭といったイスラームの祭日になると、近隣のムスリム・オロモのみならず、首都や国外からも参詣者が訪れ、聖者を通じて神の恩寵(バラカ)にあずかろうとする(映像4-1)。ムスリムに混じって、キリスト教徒が参詣する姿もしばしば見られる。参詣者はアルファキーの墓廟の前に膝をつき、祈祷台に接吻したり、額を擦り付けたりするなどして聖者に対する愛情を示す(写真3-6, 4-2)。また、現世利益を願い、この地で誓願や供儀を行うことも人々が参詣に出向く動機となっている。