第6回コロキアム 「グローバリゼーションと人類学の可能性」

「『グローバリゼーション』 を人類学的に乗り越えるために
   ─ 概念再構築型記述に向けて ─」
 湖中 真哉(静岡県立大学准教授)

本報告では、グローバリゼーション研究の方法論について、東アフリカ・ケニアの国内避難民の事例をもとに、発表者が仮定した概念補強型記述、概念無視型記述、概念再構築型記述の三つの類型をもとに展望した。

発表者は、グローバリゼーションを「人類学的に」乗り越えるためには、まずは、グローバリゼーションという概念を言説として相対化しなければならないと考えている。この意味において、既存のグローバリゼーション概念をそのまま無批判に採用したうえで、その進行をそのまま民族誌的に例証したり、あるいは、それに対応できるようにこれまでの人類学の方法論を反省したり、見直したりする概念補強型の記述は、グローバリゼーション研究に人類学的な展望をひらくものではないと考える。

この一方で、グローバリゼーション概念は人類学とは関係がないから、人類学はこれまでどおり地道にローカルにフィールドワークを続けていけばよいといった主張もありえる。これは、グローバリゼーション概念無視型の記述と呼ぶことができる。しかし、現に、各国政府や国際機関の公文書や世界中のメディアで「グローバリゼーション」という言葉が盛んに用いられ始めている。言説としてのグローバリゼーションは、将来的に、人類学者とそのフィールドの周縁社会の人々に様々な現実的影響力を及ぼすようになるかもしれない。この意味において、ローカルに閉じこもる概念無視型の記述戦略は、今後も必ずしも有効でありつづけるとはいえない。

ここで発表者が提案するのは、グローバリゼーションによって排除されてきた周縁社会の微細な生を議論に持ち込むことによって、グローバリゼーション概念それ自体を人類学的につくりかえていく概念再構築型の記述である。本報告においては、ケニア国内避難民が形成してきた「セーフティ・ネット」という概念をこの一例として例証した。こうした概念再構築型の記述は、先の概念補強型や概念無視型の記述とは異なり、グローバリゼーションの在り方それ自体を問い直し、ポスト・グローバリゼーション時代に向けて、それをつくりかえていく可能性をはらんでいる。つまり、発表者は、概念再構築型の記述を行うこと自体を、グローバリゼーションを人類学的に乗り越える方法論として提案した。