第3回コロキアム「フィールドサイエンスと空間情報科学(2)」

「空間情報を利用した文化人類学の現状と展望」
 織田竜也(東京大学空間情報科学研究センター・科学技術振興特任研究員)

GIS(地理情報システム)の登場は人文・社会科学の諸分野において,情報の処理方法を変化させてきた.本発表では,長期滞在型のフィールドワークを情報収集の中心的手法として採用する文化人類学分野において,GISを用いた情報処理の応用事例を紹介し,今後の研究手法の可能性を展望した.

GISはESRI社のArcGISが最大シェアをもつが,一般に普及したとはいい難い面がある.ビューワーとしての機能に特化すれば,Google社のGoogle Earthは専門知識がなくても操作可能という点で広く受容されている.

特にファイルの共有・交換形式を標準化したKML(Keyhole Markup Language)の公開によって,Google Earthはオープンデータベースとして利用される可能性が高まった.この点で,従来研究者が収集してきた個別の資料を,共有・交換する可能性が技術的には容易になった.

また、大学の講義で、模擬フィールドワークのワークショップを用いた異文化理解教育に取り組んでいる。いっさい解説がまた米国版のGoogle Mapsでは,Street Viewという機能が利用できることを紹介した.これは多方向を同時に撮影できる機器を利用した画像の集積によって,まさに「通りを眺める」ように地図上の画像操作を可能とする機能である.こうした機能はフィールドの情報を的確に伝達するという,文化人類学の一目的に適うものであるが,同時にプライバシーの侵害など,未だ議論が尽くされていない面もある.

GISをビューワーとして利用する場合,現状ではデジタルカメラで撮影した画像情報が中心となる.当然ながら文化人類学が収集する情報の全てが,画像情報に収まるものではない.したがって今後の展望としては,位置情報を付与した画像情報に,現地で収集したテキスト情報を効果的に結びつける手法を開発することにある.

この方向はともすれば情報学の分野への期待となるが,むしろ文化人類学の側からどのような情報を公開できるのか,具体的な内容や形式,ボリューム,相互の結び付け方などを提案していくことに活路が見出せる.そこで一つの提案として,オントロジーを用いた情報処理の手法,とりわけOWL(Web Ontology Language)による記述事例を紹介し,文化人類学分野で利用する一例を示した.