第8回コロキアム 「グローバリゼーションと人類学の可能性(2)」

「露店はモールを夢見るか―グローバル化するインドにおける露天商ビジネスの行方―」
 岩谷彩子(広島大学 准教授)

 1991年、IMFからの資金投入を受け、政府主導の計画経済を転換し市場を開放して以来、著しい経済成長を続けているインド。生産・流通の規制緩和によって、インドへは外国資本の投資が進み、外国製品が流入し、消費生活の変化とグローバリゼーションが進んでいる。こうしたインドを象徴するのが、消費生活を牽引する新中間層と彼らが足を運ぶショッピング・モールである。2000年代以降、巨大なモールが次々とインド各地に出現する一方で、人々はインフレに苦しみ、経済格差が広がっている。そんな彼らに物資やサービスを提供しているのが、これまでも人々の生活を支えてきた大道商人や露店商である。インド経済発展の象徴として注目を集めるモールの影で急増しているのが少ない資本で始められる露天商ビジネスなのだが、その現状と役割は明らかにされてこなかった。

 本報告では、インドで増大する露天商ビジネスをグローバルな空間再編のプロセスのなかでとらえなおすと同時に、露店がさまざまな物流を路上から生みだし、人とのモノのフローを生みだす場として機能している点をモールと比較して明らかにすることを目指した。事例としたのは、露天商人口約80,000人と推計されているインド、グジャラート州アーメダバード市における常設市と定期市、2009年に創業したメガ・ショッピング・モール、そしてアーメダバード市の露天商政策と都市整備計画である。そこでは露天商ビジネスが、1)都市部における人口増加とニーズの多様化にともなって生じた需要にこたえていること、2)近代化とグローバル化の狭間で生み出された、インドの空間再編の指標ともいえること、3)露天商人口の流動性とゆるやかなネットワーク、が明らかになった。とりわけ、露天商ビジネスにおいて既存のコミュニティが果たしている役割の重要性と、グローバル化する消費生活に応答しつつ、個人や家族を基盤として人とモノのトランスナショナル/トランスリージョナルなフローを生みだしている古物商・古着商のあり方は注目に値する。

 本報告では、インドで増大する露天商ビジネスをグローバルな空間再編のプロセスのなかでとらえなおすと同時に、露店がさまざまな物流を路上から生みだし、人とのモノのフローを生みだす場として機能している点をモールと比較して明らかにすることを目指した。事例としたのは、露天商人口約80,000人と推計されているインド、グジャラート州アーメダバード市における常設市と定期市、2009年に創業したメガ・ショッピング・モール、そしてアーメダバード市の露天商政策と都市整備計画である。そこでは露天商ビジネスが、1)都市部における人口増加とニーズの多様化にともなって生じた需要にこたえていること、2)近代化とグローバル化の狭間で生み出された、インドの空間再編の指標ともいえること、3)露天商人口の流動性とゆるやかなネットワーク、が明らかになった。とりわけ、露天商ビジネスにおいて既存のコミュニティが果たしている役割の重要性と、グローバル化する消費生活に応答しつつ、個人や家族を基盤として人とモノのトランスナショナル/トランスリージョナルなフローを生みだしている古物商・古着商のあり方は注目に値する。

 現状をまとめると、インドではグローバルに展開するモールと露店が併存しており、消費者にとっても行政側でも露店のニーズと露天商の権利は無視できないものとみなされている。その一方で、近代的な都市整備とモールに代表されるグローバルな流通網の拡充が、今後どれほど路上における人々のフレキシブルなネットワークに影響していくのか、インドの公共空間の意味をどのように変えていくのか、露天商の権利保護の問題も含めて注視していく必要がある。