2016年度第1回ワークショップ「災害と/のフィールドワーク」

「フィールド・ワークと民族誌の長い距離:スローな人類学が災害復興にできる/ できないこと」

清水 展(京都大学)

 1991年以降、ピナトゥボとイフガオで実感したことは、彼らが私たちと同時代人であることでした。自文化/異文化、自己/他者を峻別して、両者の差異に着目し、異なる意味世界に生きる人々として内在的に理解しようとしてきた私自身の人類学は限界にいたり、破綻しました。流行りの言葉では、「へだたり」よりも「つながり」に注目しなければ、ということになるでしょうか。

 地球全体を包摂するシステムの外部で自立=自律(自閉=自足)している小世界はどこにもないでしょう。探検の時代の気分で、新しい研究領域の探索を試みるのは無理があるのでは?彼ら彼女らは、私たちの同時代を生きる同類・同志であるというのが私の確かな実感です。私たちと違った場所で、それぞれの歴史と文化に支えられ、グローバル化がもたらす可能性と問題・困難に直面、対応してきた私たちの同時代人なのです。彼ら彼女らとわれわれは、幾つもの回路によるネットワークですでに結ばれており、つながっています。似たような物質生活を送り、趣味や感性の共通性も大きい。

 再び人類学の初心にもどり、人間としての共通性と個別文化による差異の両方を包摂する人間理解を目指すべきではないか。そして、共通性と「つながり」を自覚し、人類学者もまた調査地の人々と深く結ばれてしまっていることの先へ、自らそうした回路の一つとなり、積極的な応答をとおして国際公共空間を作ってゆくことに貢献したい。