2016年度第1回ワークショップ「災害と/のフィールドワーク」

「災害下での人類学的フィールドワークの試み:サルベーション・コラボレーション・アクション」

木村 周平(筑波大学)

自然災害はあらゆる社会が経験する問題であり、これまで文化人類学からも様々な研究が行われてきた。本発表においてその研究群を整理する余裕はないが、大まかに分類すれば、災害に関わる人類学研究は、構造的なもの(繰り返し起きる災害に対する社会的・文化的な備えに焦点を当てるもの)と、出来事的なもの(ある具体的な災害を事例に、そこで展開する社会的なプロセスに焦点を当てるもの)の二つの傾向に分けることができるだろう。もちろん実際の研究のなかでは両傾向は混在するが、近年はどちらかといえば後者の研究が増えているように見える。そしてとりわけ後者のタイプの研究は、人類学の従来のやり方を見直す契機をはらんでいると考える。


本発表は二部構成をとる。前半では災害の/と文化人類学的フィールドワークについて、とくに東日本大震災に関わる事例を例に取り上げて、この出来事としての災害が人類学的な調査・研究にどのような変化を生じつつあるのかについて論じる。そのキーワードが、サルベーション・コラボレーション・アクションである。より具体的に言えば、従来の「単独・長期のフィールドワーク」に加え、「協働・短期のフィールドワーク」が生まれつつあり、それに伴ってフィールドワークの成果としての民族誌のあり方も変化しつつあるように見える。


以上を指摘したうえで、後半では、発表者が関わっている、岩手県沿岸部の漁業集落におけるフィールドワークについて紹介する。発表者は2012年初めごろからこの集落において、都市計画、防災研究、建築史、情報学の研究者やその学生らとともに、地域の人々と関わり、調査とサポートを行ってきた。この4年のあいだにこの集落では要望書の市役所への提出、集団移転計画の取りまとめから実施、住宅再建の進展と仮設住宅の撤去などを経験してきた。我々の活動ははじめ10年後の復興を見据えた支援を中心としていたが、活動が進むなかで、50年後(ぐらいに起きるだろうことがこれまでの経験から予測できる)の次の災害への備えを視野に入れるようになり、それと同時的に80年前の昭和三陸津波からの復興過程を掘り起こすことに目が向くようになった。この、協働的な取り組みのなかで時間的に視野が広がったことは、発表者に、かつてヨハネス・ファビアンが提起した人類学的な調査・研究における時間性の問題を再考させることになった。本発表では最後にこの点について、上記の事例にもとづいて考察したい。