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2023年度言語研修

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ハカス語

研修期間
2023年8月21日(月)~2023年9月15日(金)
午前10時00分 ~ 午後4時30分(土曜日,日曜日は休講)

研修時間
100時間

研修会場
大阪大学 箕面キャンパス
(〒562-8678 大阪府箕面市船場東3-5-10)

講師
主任講師:
高島 尚生(たかしま なおき)
2008年度東京外国語大学AA研夏季言語研修(トゥヴァ語)講師
ネイティブ講師:
Alevtina IDIMESHEVA(アレフチーナ イディメシェヴァ)

受講料
60,000円(教材費込み)

教材
1.『ハカス語文法』(高島 尚生 著)
2.『ハカス語入門』(高島 尚生 著)

文化講演
【1回目】日時:2023年9月4日(月)
【2回目】日時:2023年9月11日(月)
講演者:大澤孝(大阪大学大学院人文学研究科教授)

講師報告

1. 研修の概要 詳細

○研修期間:
2023年8月21日(月)~2023年9月15日(金)
午前10時00分 ~ 午後4時30分(土曜日,日曜日は休講 )
○研修時間:
100時間
○研修会場:
大阪大学 箕面キャンパス 外国学研究講義棟(519教室)

本研修は2023年8月21日(月)から2023年9月15日(金)までの20日間,1日あたり5時間,合計100時間実施した。
会場は,大阪大学 箕面キャンパス 外国学研究講義棟(519教室)を利用した。

2. 講師 詳細

○主任講師:
高島 尚生(たかしま なおき)2008年度東京外国語大学AA研夏季言語研修(トゥヴァ語)講師
○ネイティブ講師:
Alevtina IDIMESHEVA(アレフチーナ イディメシェヴァ)
文化講演者:
大澤孝(大阪大学大学院人文学研究科教授)

3. 教材 詳細

  1. 『ハカス語文法』(高島尚生 著)
  2. 『ハカス語入門』(高島尚生 著)

1.『ハカス語文法』は,ハカス語文法を品詞ごとにまとめてあり,基本的な文法が網羅されている。これまで日本にこのようにまとまった文法書がなかったという点で価値があるといえるだろう。研修では主として文法説明の補足や文法便覧的な役割を果たした。
2.『ハカス語入門』はハカス語文法の基本的な文法事項をできるだけ効率よく習得できるように,文法項目を表にまとめながら文法説明を簡潔にして,学びやすい順序で25課からなる入門書にした。巻末には「読み物」を入れてあり,研修後の学習用に役立てるようにしてある。
ネイティブ講師Idimeshevaは例文のチェックを行い,研修中にはもっと適切な例文や別の表現も提案,それらを追加することができた。加えて,彼女による新出単語や例文などの録音を実施しているので,研修後も音声を聞いて学習できるようにしてある。
ハカス語の学習用教材はこれまでに皆無であったといえるので,価値ある教材となったと考える。

4. 受講生詳細 詳細

受講生は2名で,両名ともにテュルク諸語や他言語の研究者であった。受講動機はシベリア諸民族の言語間接触やテュルク諸語を含むSOV型語順の言語,テュルク諸言語の比較に関心があり,今後の自分の研究に生かしたいという方々であった。
受講生の1人が勤務大学の仕事の都合でやむなく欠席する日があった以外,両名ともに欠席もなく授業すべてに出席し,無事研修課程を修了した。

5. 文化講演 詳細

【1回目】2023年9月4日(月)
【2回目】2022年9月11日(月)
講演者:大澤孝(大阪大学大学院人文学研究科教授)

文化講演は2回とも大阪大学大澤孝先生にして頂いた。大澤先生はハカスやトゥバ,モンゴルなどで青銅器時代や鉄器時代の古墳や岩絵の研究から突厥や古代キルギス時代の碑文研究と広範囲な研究をされていて,今回の講演では先生がハカス共和国で行った遺跡や古墳,碑文の調査について,写真を交えて話して頂いた。
現代のハカス民族の起源やハカス民族と考古学的時代に現在のハカス領内に暮らした氏族との関係性,彼らがどこからやってきたのか,などハカスの領域だけにとどまらず,中国や中央アジア,黒海に至る広い文化交流・伝播の歴史にまで話の内容は広がった。
また,歴史的価値のある石碑への落書きなど現在の保存状況やその憂慮すべき問題にも言及された。
2回の公演ともに予定時間をこえるほど興味深い話ばかりで,少ない人数ながらも質疑応答も活発に行われた。

6. 授業 詳細

授業は『ハカス語入門』を使用して,高島が文法説明,格の変化や動詞の活用などの練習問題を中心として進め,ネイティブ講師Idimeshevaはほぼすべての例文やテキストを授業で読み,発音の指導をし,簡単な会話のやりとりも高島とともに行った。
受講者2名はロシア語を理解したので,ロシア文字を使用するハカス語の文字と発音に関しては,多くの時間を割く必要はなく,ハカス語固有の文字と発音の練習だけで済んだこともあり,予定よりも早く教科書25課を終えることができた。その後は『ハカス語文法』から文法項目を選んで解説したり,読み物を読んでハカス語の理解を深めた。
ネイティブ講師Idimeshevaは、ときにはハカス民族のなかの諸氏族について,文化や伝統について,ソ連時代と崩壊後の現地の生活などについて本では書かれていないような話をロシア語でしてくれることがあったが,受講生は高島が通訳しなくとも理解できたので,貴重な話を直接聞ける機会になったと考える。

7. 研修の成果と課題 詳細

4週間の研修で、受講生はハカス語文法の基礎を習得できたと考える。
研修中には様々な質問が飛び交い、他のテュルク諸語との比較もあり、ネイティブ講師を含めて様々な文法項目について論議することができた。なによりも講師高島が勉強になることが多くあった。
受講生各自の今後の研究にハカス語研修が少しでも役に立てばこれほど嬉しいことはないと考えている。
研修を振り返ってみて、授業で文法習得に時間を割きすぎて会話練習があまりできなかったことを反省している。そのためにも将来の課題として、シチュエーションに応じた会話、ダイアローグ集を作成したいと思う。
研修中には教科書や文法書の間違いや修正点も見つかり、教材の加筆・修正が今後の課題となっている。また、研修に合わせて、ハカス語辞典とハカス語分類語彙集も完成させる予定であったが、研修期間に完成できず受講生の皆様にご迷惑をおかけした。研修後の学習のためにも辞書の完成に向けて作業中である。

8. おわりに 詳細

今回受講された受講生の皆様にたいへん感謝しています。研修を通じて、担当講師の知識不足を身に染みて感じました。受講生お二人のテュルク諸語と他の諸言語の知識には驚嘆するばかりで、教えていただくことばかりでした。講師自身がハカス語をもっと深く勉強しなければならない、他のテュルク諸語も広く勉強しようという大きな刺激を受けました。全研修期間を通して授業進行がスムーズにできたのも受講生のおかげです。
今回ハカス語研修を開催する機会を与えていただいたことに対し、AA研言語研修委員会の諸先生方、特に同委員会委員長を務めておられる品川大輔先生に深く感謝します。品川先生には教材録音のため東京に滞在した際には、録音室の手配や機材の準備をはじめとしてとてもお世話になりました。本当にありがとうございます。
研修実施中に何も問題が起きることなく開催することができたのは、書類作成をはじめとして様々な事務的な仕事をしていただいた共同拠点係の皆様にほかならず、この場を借りて感謝の意を伝えます。加えて、大阪会場となった大阪大学の担当者の皆様にも感謝します。


ジョージア語(グルジア語)

研修期間
2023年8月21日(月)~2023年9月8日(金)
午前10時00分 ~ 午後4時30分(土曜日,日曜日は休講)

研修時間
75時間

研修会場
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
(〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1)

講師
主任講師:
児島 康宏(こじま やすひろ)東京外国語大学非常勤講師
ネイティブ講師:
ゴツィリゼ児島 メデア(Gotsiridze-Kojima Medea)

受講料
45,000円(教材費込み)

教材
1.『ジョージア語入門』(児島 康宏 著)
2.『ジョージア語・日本語小辞典』(児島 康宏 著)

文化講演
日時:2023年8月21日(月)
ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使),ダヴィト・ゴギナシヴィリ(駐日ジョージア大使館専門分析官)
日時:2023年8月29日(火)
久岡加枝(国立民族学博物館外来研究員)
日時:2023年9月5日(火)
はらだ たけひで(元・岩波ホール勤務 ・ジョージア映画祭主宰)

講師報告

1. 研修の概要 詳細

○研修期間:
2023年8月21日(月)~2023年9月8日(金)
午前10時00分 ~ 午後4時30分(土曜日,日曜日は休講 )
○研修時間:
75時間
○研修会場:
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(304室)

本研修は2023年8月21日(月)から2023年9月8日(金)までの15日間,1日あたり5時間,合計75時間実施した。
会場は,東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(304室)を利用した。

2. 講師 詳細

○主任講師:
児島 康宏(こじま やすひろ)東京外国語大学非常勤講師
○ネイティブ講師:
ゴツィリゼ児島 メデア(Gotsiridze-Kojima Medea)
文化講演者:
ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)
ダヴィト・ゴギナシヴィリ(駐日ジョージア大使館専門分析官)
久岡加枝(国立民族学博物館外来研究員)
はらだ たけひで(元・岩波ホール勤務 ・ジョージア映画祭主宰)

3. 教材 詳細

  1. 『ジョージア語入門』(児島康宏 著)
  2. 『ジョージア語・日本語小辞典』(児島康宏 著)

1.『ジョージア語入門』はジョージア文字の読み書きから始まり,例文を読んだり,簡単なジョージア語作文を行なったりしながら文法を学んでいく教科書である。短期間での集中的な学習において負担とならないように使用する語彙をなるべく少なくしぼった。また,学習した文法事項を実際に会話の中で用いて身につけられるよう,自然な会話の例や会話練習を多く含めた。
2.『ジョージア語・日本語小辞典』は補助的な教材として作成したものであり,見出し語として約7,000語を収録した。巻末には,『ジョージア語入門』で使われている約500語を日本語から調べられるよう日本語・ジョージア語語彙集を付した。

4. 受講生詳細 詳細

受講者は定員の10名であった。うち他大学学部生4名,本学大学院生1名,大学教員2名。約半数が皆勤で,最後には全員が優秀な成績で修了した。
受講動機はさまざまであったが,約半数がジョージアに関連する調査・研究をすでに行なっていたり,あるいは今後行なうことを考えていた。ジョージアの大学への留学を希望する受講者もいた。数名は研修後にジョージアへ渡航することを計画していた。

5. 文化講演 詳細

2023年8月21日(月)
講演者:ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使),ダヴィト・ゴギナシヴィリ(駐日ジョージア大使館専門分析官)

「なぜ日本でジョージア文化をプロモーションするのか」
両名から,日本での大使および大使館の活動,とくにジョージア文化に対する理解を促進するための活動について説明された。最後には受講者から多くの質問が出て,活発な質疑応答があった。講演はオンラインでも公開され,40名ほどが視聴した。

2023年8月29日(火)
講演者:久岡加枝(国立民族学博物館外来研究員)

「ジョージア(グルジア)の音楽文化」
ジョージア各地の民謡や音楽を聴きながら,それぞれの地方の音楽の特色や歴史などが解説された。講師が民族楽器を会場で演奏して見せたり,実際に受講者が歌って多声合唱を試みてみたりして,受講者には面白い体験となったと思われる。

2023年9月5日(火)
講演者:はらだ たけひで(元・岩波ホール勤務 ・ジョージア映画祭主宰)

「ジョージアと映画」
日本でのジョージア映画の紹介に長年携わってきた講師に,ジョージア映画について自身の体験やさまざまなエピソードを交えて語ってもらった。講演はオンラインでも公開され,17名ほどが視聴した。

6. 授業 詳細

基本的に,文法事項や例文の解説を児島が,発音や会話の練習などをゴツィリゼ講師が担当した。
最初の2日間でジョージア文字の発音と書きかたをしっかり練習し,その後はテキスト『ジョージア語入門』に沿って基本的な文法を学んでいった。一つの課ごとに,まず文法事項の解説に続いて例文を読んで訳した後,簡単な文を日本語からジョージア語に訳し,さらに当該の文法事項を用いた会話の練習を行なって,学んだ内容の確認と定着を図った。
最初の授業で受講者全員にジョージア語の名前をつけ,授業中,とくに会話の練習では互いにその名前で呼び合うことにした。ジョージア語でのより自然な会話が可能になったほか,親密な雰囲気の醸成においてもよい効果があったと思われる。

7. 研修の成果と課題 詳細

テキストとして用いた『ジョージア語入門』は念のため第30課まで用意してあった。全部の内容を消化するために急ぐことも可能であったが,会話の練習にも時間を割きつつ落ち着いて進めていったので,最終日に第25課に到達したところで終えた。当初の予定通りにはいかなかったものの,焦らず着実に進めたおかげで,複雑な動詞の活用をはじめ学んだ内容を全員がかなりの程度に習得し,使いこなせるようになったので,結果的に良かったと考える。
文法事項としては,名詞の数・格変化,さまざまなタイプの動詞の直説法の基本的な変化形(未来形,現在形,未完了過去形,過去形),主語・目的語による活用,数詞,後置詞,動名詞,関係節などについて学び,最後に接続法を紹介したところで授業を終えた。接続法について十分に説明し,さらにさまざまな分詞や完了形,過去完了形に至るまで基本的な文法の全体を今回のペースで扱おうとすると,おそらく5週間ほどかかってしまうと思われるが,今回はそこまでの時間はとれなかった。

8. おわりに 詳細

3週間にわたる集中的な研修はなかなか大変であったが,受講者全員が最後まで積極的に学習に臨み,無事に研修を終了することができた。まずは受講者の方々に深い感謝を表したい。また,研修の準備や事務的な手続きにおいて大いにお世話になったAA研の皆様に御礼申し上げる。


ベンバ語

研修期間
2023年8月21日(月)~2023年9月8日(金)
午前10時00分 ~ 午後4時30分(土曜日,日曜日は休講)

研修時間
75時間

研修会場
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
(〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1)

講師
主任講師:
品川大輔(しながわ だいすけ)東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授
ネイティブ講師:
Subila Chilupula(スビラ・チルプラ)東京外国語大学総合国際学研究科大学院生

受講料
45,000円(教材費込み)

教材
1.『ベンバ語調査票』(品川大輔,Subila Chilupula 著)
2.『バントゥ諸語調査ハンドブック』(品川大輔 著)

文化講演
日時:2023年8月25日(金)
大門 碧(北海道大学国際連携機構(ナイロビサテライト))
日時:2023年9月1日(金)
梶 茂樹(京都大学名誉教授,京都産業大学ことばの科学研究センター)
日時:2023年9月8日(金)
杉山祐子(弘前大学)

講師報告

1. 研修の概要 詳細

○研修期間:
2023年8月21日(月)~2023年9月8日(金)
午前10時00分 ~ 午後4時30分(土曜日,日曜日は休講 )
○研修時間:
75時間
○研修会場:
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(306室)

本研修は2023年8月21日(月)から2023年9月8日(金)までの15日間,1日あたり5時間,合計75時間実施した。
会場は,東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(306室)を利用した。

2. 講師 詳細

○主任講師:
品川大輔(しながわ だいすけ)東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授
○ネイティブ講師:
Subila Chilupula(スビラ・チルプラ)東京外国語大学総合国際学研究科大学院生
文化講演者:
大門碧(北海道大学国際連携機構(ナイロビサテライト)特任講師/留学コーディネーター)
梶茂樹(京都産業大学ことばの科学研究センター員)
杉山祐子(弘前大学教授)

3. 教材 詳細

  1. 『ベンバ語調査票』(品川大輔,Subila Chilupula 著)
  2. 『バントゥ諸語調査ハンドブック』(品川大輔 著)

『ベンバ語調査票』は,本研修における文法調査のセッションのために用意した質問票で,セッションで扱うことを念頭に置いた文法項目を網羅的に整理している。
『バントゥ諸語調査ハンドブック』は,調査セッション全体で役に立つであろうバントゥ諸語学に関する一般知識を整理した解説書.Routledgeから出版されている世界の語族シリーズの一冊であるDerek Nurse and Gérard Philippson (eds.) (2003) The Bantu languages のうちの,音声学,分節素音韻論,声調論,名詞形態論,派生形態論などの主要項目を底本として,バントゥ諸語に広くみられる言語現象やバントゥ語学の基本概念を一冊にまとめてある.また,語彙調査セッションにおいては,AA研刊の『アジア・アフリカ言語調査票<下>』を語彙調査票として用いた。

4. 受講生詳細 詳細

受講生の構成は,本学学部生3名,同大学院生1名,一般申請による受講生1名の計5名であった。受講生の資質は総じて高く,とくに学部生のうち2名は言語学のゼミに所属し,すでにきわめて高い水準の言語学的な知識を有していた。また1名の大学院生は,すでに外部研究機関の共同研究プロジェクトに参画する若手研究者であり,とくに言語類型論的な視野と関心を高いレベルで有しているようであった。学外からの受講生1名もすでに過年度の言語研修を受講されるなど,言語習得また言語の記述,分析に関して高い資質を有しておられた。受講動機という点でも,多くはフィールド言語学の方法論を実践的に習得したいという意志を持っており,研修の内容と概ね合致していたようである。ほぼ全員が全日程に参加,全員が無事に修了した。

5. 文化講演 詳細

2023年8月25日(金)
講演者:大門 碧(北海道大学国際連携機構(ナイロビサテライト))

演題:「ウガンダ・カンパラの若者がつくりだしたカラオケ文化」
要旨:講師が長きにわたって調査してきたウガンダの都市カンパラにおけるエンターテイメント・ショーとしての「カリオケ」の実際のパフォーマンスの構成や発達の歴史的経緯,また社会的背景について映像を交えて紹介された。コロナ状況以前にパフォーマーとして活躍していた若者の「その後」に関する最新の研究内容も紹介され,また受講生からは,パフォーマンスのオンライン空間での影響力についてなど同時代性を反映した質問が寄せられ,現代アフリカにおける都市的文化状況を学ぶ刺激的な機会となった。

2023年9月1日(金)
講演者:梶 茂樹 (京都大学名誉教授,京都産業大学ことばの科学研究センター)

演題:「テンボ語の親族名称」
要旨:本邦におけるバントゥ諸語研究のパイオニアによるバントゥ系社会の親族名称体系に関する講演であった。ベンバ社会を含む母系相続社会が広く分布するいわゆるMatrilineal beltなどバントゥ系集団の親族体系や,親族名称研究の学術史的背景を概観したうえで,講師が長く調査してきたDRC東部で話されるテンボ語(Bantu JD531)の親族名称体系について,その具体的な形式に基づいて解説がなされるとともに,その体系に反映される社会的機能についても論じられた。とりわけバントゥ系集団の社会構成原理に関心のある受講生から熱心な質問が投げかけられた。

2023年9月8日(金)
講演者:杉山祐子 (弘前大学)

演題:「変わりゆく村の暮らしと伝統的王国 ― ミオンボ林(Miombo woodland)と深く結びついてきた人びと」
要旨:長年にわたってベンバ社会のなかで生活をともにしながら人類学的調査を続けてこられた講師による,ベンバ社会の変わりゆく姿を多面的に紹介する講演であった。ベンバの人々の歴史,王国の政治組織,サステイナブルかつ環境調和的な農法 (citemene),ミオンボ林,祖霊信仰,そしてそれらの有機的な繋がりが,具体的なビジュアルとエピソードとともに生き生きと提示された。言語そのものの記述と分析に集中してきた受講生にとって,その言語を話す人々の社会の全体像を具体的に学ぶ貴重な機会を得て,全3週間の研修が締めくくられた。

6. 授業 詳細

全3週15日にわたる研修の初日は,アイスブレイク,ネイティブ講師によるベンバの人々とその社会に関するレクチャー,そして主任講師によるベンバ語,バントゥ語学,そしてフィールド言語学に関する導入的なトークがなされた。2日目から本格的な調査に入り,午前中は語彙調査セッション,午後は文法調査セッション(ただし上述のとおり,毎金曜の5限目は文化講演)というルーティーンで3週間の研修が行われた。
語彙調査においては,とりわけバントゥ諸語に顕著な統語環境における声調パターンの違いを把握するために複数の形態統語的な環境における実現を記述する必要がある。ひとつの語彙項目を記述するために,分節素,声調,形態統語環境など,さまざまな情報を同時に処理する必要があり,音韻論の基本的な特徴を解説し音素表記を共有したうえでも,当初は1語の記述に相当な時間を有した。ただ,1週間を過ぎることには,一定のペースで語彙記述を行うことが可能になった。午前中のセッションで調査しえた語形は,セッションの最後にすべて録音し,音声資料として記録している。また,第2週の月曜に音声分析プログラムPraatを用いた音声ファイル処理の方法について研修を行なった。
文法調査については,配布教材とした『ベンバ語調査票』にあげた9つの文法項目のうち,実際に扱い得たのは以下の7つの項目であった:名詞クラス (形容詞,指示詞,動詞などとの一致形態論を含む),基本述語 (non-verbal predicate),代名詞,名詞修飾表現,動詞時制形,動詞派生形,関係節。これらそれぞれに,スワヒリ語など他のバントゥ諸語と広く共有される一般的な特徴もあれば,他の言語と比較してかなり複雑な特徴も観察された。とくに後者の記述の過程では,受講生とコンサルタント役のネイティブ講師との間で熱心なやりとりが交わされ充実したセッションとなった。また,受講生から講師側が想定していなかった点に関して鋭い質問が発せられたことで,調査項目を拡張する局面もあった (目的語対称性 object symmetryに関する議論など)。
以上のように,調査項目の数としては網羅的と言えるところまではカバーできなかったものの,質的には想定をはるかに超える高い水準のセッションが連日にわたって行われた。受講生の一部からは,実施期間はもっと長くてよかったというアンケートの回答も寄せられたが,それはこのことを反映していると思われ,その意味でも研修の内容としてはとても充実したものとなった。

7. 研修の成果と課題 詳細

研修の成果としては,まず上述のように非常に質の高いセッションを行うことができ,とくに今後本格的に言語研究を志そうという受講生に,言語記述の実践の機会を提供できたことを挙げてよいと思われる。またこの研修で得られた語彙データをもとに,この研修において学んだ方法によって音声ファイルから音響情報のプロットを抽出して,語彙資料集を作成する予定であり,これは研修後に発信される成果となることが期待される。
一方の課題としては,これも上述のとおり,扱い得た文法項目が限定的になってしまったことが挙げられる。これは,語彙調査セッションも含め,効率的に進めるための講師側の準備が不十分だったことに起因する点も多く,反省点として残る。ただし,今回の経験をふまえて言えば,フィールドメソッドコースとして開講する研修であれば,1ヶ月以上の研修期間であったとしても (受講生の意欲と資質に頼る部分はあるが) 質の高い研修の実施は可能であろうと思う。今後,より望ましい言語研修のあり方を考えるうえで参考になればと思う次第である。

8. おわりに 詳細

まずは3週間の研修を無事に完走することができたことに安堵するとともに,献身的にコンサルタント役を引き受けてくださったネイティブ講師のSubila Chilupulaさんに深く感謝を申し上げます。文化講演をご快諾くださった,大門先生,梶先生,杉山先生にも篤く御礼を申し上げる次第です。さらには,研修の準備段階から実際の研修においても,分析の内容にかかる部分にいたるまでサポート役を買って出ていただいたAA研ジュニアフェローの古本真さん,また言語研修担当の教務補佐員として教材作成の補助作業を引き受けていただいた網谷晃樹さんのご協力にも感謝を申し上げます。そして研修期間中,運営サイドでご尽力いただいた共同利用拠点係のみなさま,またバックアップに入っていただいた研究協力課のみなさまにも深く御礼を申し上げます。
最後に,長期にわたる研修をここまで充実したものにできたのは,すべての受講生の協力的かつ熱心な参加があってのことであり,感謝に絶えません。今後,本格的な言語研究の道に進む受講生のみならず,全てのメンバーにとって意義のある研修になっていれば,これにすぐることはありません。


2023年度 言語研修募集要項

この研修はアジア・アフリカ地域での現地調査・研究や専門的業務に役立つ現地語の習得を目指す短期集中型語学研修です。 日本の専門研究者と母語話者とが一緒に教授にあたる生きた言語教育である点が特徴です。
今年度は,大阪会場にてハカス語,東京会場にてジョージア語(グルジア語)・ベンバ語の言語研修を実施しますので,受講希望者は以下によりお申込みください。
※各言語,対面での開催を予定していますが,コロナウィルスの感染状況,または,社会情勢の変化によって変更になる可能性があります。

各言語の詳細はこちら

募集要項(共通事項)

1. 募集言語ハカス語,ジョージア語(グルジア語),ベンバ語
コロナウィルスの感染状況,または,社会情勢の変化によりネイティブ講師の来日が不可となった場合,ネイティブ講師はオンラインで参加します。その場合,開催時間が変更となる可能性があります。
2. 募集人員各言語 約10名
3. 募集期間 2023年6月1日(木)~2023年6月22日(木)
※エントリー締切:6月15日(木),書類アップロード締切:6月22日(木)
※ハカス語とベンバ語のみ,7月6日(木)まで延長します。
4. 応募資格大学在学生,大学卒業者または上記の目的に必要な学力及び動機をお持ちの方であれば,ご応募いただけます。
5. 応募方法所定の受講申込書に必要事項をご記入の上,在学証明書又は最終学校の卒業証明書(写)を添えて,お申し込みください。
以下エントリーボタンより必要事項を入力しエントリーをしてください。自動返信メールに書類アップロード先のURLが記載されていますので,期日までに必要書類を提出してください。

受講申込書:wordファイル
6. 選考方法当研究所で書類審査により選考します。
7. 選考結果受講の可否は,一次募集応募分については,7月下旬に本人あてにEメールにて通知します。
8. 受講手続受講を許可された方は,所定の期日までに,研修言語ごとに定められた額の受講料を一括納付してください。受講料等は各言語ごとに異なりますので,それぞれのページをご覧ください。
9. 修了証書研修言語ごとに定められている授業時間数の3分の2以上出席し,かつ所定の成績を収めた受講者に修了証書を交付します。
10. そ の 他研修期間中,文化講演として,担当講師以外の外部講師を招いた授業を取り入れています。文化講演は一般向けに公開することがあります。
11. 授業の実施方法について十分な感染防止対策を取った上で,原則として対面で行います。
新型コロナウイルス感染拡大の状況によってはオンライン授業に切り替える場合があります。
(判断は原則として研修の1週間前までに行いますが,急激な感染状況の変化が生じた場合はその限りではありません。)
研修中は機械換気による常時換気を行うとともに必要に応じて窓開けを行います。その他の感染防止対策については,随時講師の指示および会場校の方針に従っていただきます。
12. 申込み先東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所2階206室
研究協力課共同研究拠点係
〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1
TEL 042-330-5603, FAX 042-330-5610
Email ilcaa-ilc[at]tufs.ac.jp [at]を@に置き換えてください。


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