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2014年度言語研修


2014年度は,チャガ語,チャム語(東京会場),タイ語中級(大阪会場)の講座を開講しました。

チャガ=ロンボ語

チャガ=ロンボ語授業風景
研修期間
2014年8月14日(木)~ 2014年9月12日(金)
午前10時00分 ~ 午後5時30分(土曜日・日曜日は休講)

研修時間
132時間

研修会場
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
(〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1)

講師
品川大輔(香川大学経済学部准教授)
モニカ・アポリナリ(Eckernforde Tanga University講師)

受講料
79,200円(教材費込み)

教材
『チャガ=ロンボ語(Bantu E623)文法スケッチ/ A grammatical sketch of Chaga-Rombo (Bantu E623)』 (品川大輔)(4.2MB)  正誤表(429KB)
『チャガ=ロンボ語(Bantu E623)基礎語彙集 / A Basic Vocabulary of Chaga-Rombo (Bantu E623)』(品川大輔,モニカ・アポリナリ)(8.2MB)

講師報告

1. 研修の概要 詳細

研修期間:
2014年8月14日(木)~ 2014年9月12日(金)
研修時間:
132時間
研修会場:
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所

本研修は2014年8月14日(木)から9月12日(金)までの22日間,1日あたり6時間(午前2時間,午後4時間),合計132時間実施した。
会場は,アジア・アフリカ言語文化研究所マルチメディアセミナー室(306)を利用した。

2. 講師 詳細

主任講師:
品川大輔(香川大学経済学部准教授)
外国人講師:
Monica Apolinari(Eckernforde Tanga University講師)
文化講演講師:
辻村英之(京都大学農学研究科准教授)
溝内克之(公益社団法人青年海外協力協会 / 独立行政法人国際協力機構タンザニア事務所企画調査員)
阿部優子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所特任研究員)

3. 教材 詳細

  • 『チャガ゠ロンボ語(Bantu E623)文法スケッチ/ A grammatical sketch of Chaga-Rombo (Bantu E623)』 (品川大輔)
  • 『チャガ゠ロンボ語(Bantu E623)基礎語彙集 / A Basic Vocabulary of Chaga-Rombo (Bantu E623)』(品川大輔,モニカ・アポリナリ)

これら2点の教材は,研修実施前に準備したものを土台としつつ,研修時に得られた知見や,研修中に並行的に行った調査によって完成したものである。
『チャガ=ロンボ語文法スケッチ』は,以下に示す『チャガ=ロンボ語(E623)文法調査票』作成のための予備調査,および,それを用いて行った研修時の調査によって得られたデータをもとに,同言語の文法の概略を記述したものである。
『チャガ=ロンボ語基礎語彙集』は,研修準備のための事前調査,および研修時に並行して行った補足調査によって得られた同言語の基本的な語彙約1,000語を収録する。
チャガ=ロンボ語に関する文法書および語彙集は,現地でのものも含め,未だ公刊されたものはなく,これらは同言語に関する最初の記述資料ということになる。
実際の研修では,これらとは別に,次の3点を使用した。

  1. 『バントゥ諸語調査ハンドブック』(98頁)
  2. 『チャガ=ロンボ語(E623)文法調査票』(195頁)
  3. 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(1979)『アジア・アフリカ言語調査票(下)』

1は,調査・分析を進めるうえで必要になる専門的な知識を,受講生が容易に参照できることを意図して編纂したものである。Derek Nurse and Gérard Philippson eds. (2003) The Bantu Languages, Routledgeを底本とし,その他バントゥ語学の基本文献の情報を編集して,バントゥ諸語に見られる一般的現象やバントゥ語学の学術用語の解説をまとめた。
2は,各回の午後の時間に行った文法調査で用いるための調査票である。チャガ=ロンボ語の文法の全体像を理解するために必要な項目を選定し,22日間の調査でカバーできる範囲をやや超える分量になるように編集した(結果的に,研修最終日にすべての項目の調査を終えた)。「基本述語」,「名詞と名詞クラス」,動詞の「単純時制形」,「アスペクト形」等16の大項目(195頁)からなり,質問文は日本語とスワヒリ語を併記した。
3は,各回の午前の時間に行った語彙調査で用いた。ちなみに研修の時間内で,同調査票の「A語彙」200語の記述を行った。

4. 受講生詳細 詳細

履修登録は6名であった。うち1名が,研修の早い段階で数日間体調を崩し,その影響で以降の受講を見送らざるを得なくなったのは残念であったが,残りの5名は(所属校での行事など止むを得ない事情での欠席を除き)皆出席であった。この5名は,全員が無事に修了した。
5名のうち3名は,東京外国語大学国際社会学部のアフリカ地域専攻の学部生で,アフリカ地域研究への関心が高く,「生の」アフリカに接したい,アフリカの多様性を知りたい,といった動機で受講するにいたったようである。残り2名は,言語そのもの,あるいは言語記述研究に強い関心を持っている受講生である。うち1名は東京外国語大学大学院の院生で,記述言語学を専攻しており,すでに専門的な知識をかなりの程度身につけていた。もう1名は高校3年生であるが,世界の多様な言語への関心が高いだけでなく,すでに(比較的マイナーな言語を含む)いくつかの言語について,かなり高度な知識を有していた。
言語学的な興味で受講した2名が十二分にその熱意と能力を発揮してくれたことは,研修遂行上,大きな助けとなった。のみならず,おそらくは当初の動機がすべては満たされなかったはずの3名の学部生が,それぞれの能力を発揮しつつ,毎回楽しんで受講してくれたことは,担当講師として胸をなでおろす思いである。

5. 文化講演 詳細

文化講演は,3週目,4週目,5週目の金曜日の午後の時間に行われた。概要は次のとおりである。

第1回:8月29日13:00~17:30
講師:辻村英之氏(京都大学農学研究科准教授)
演題:「チャガ(マチャメ)民族の生計構造―アフリカ型農村開発とコーヒー・フェアトレード」
内容:チャガ人の住むキリマンジャロは,コーヒー産地として世界的に知られている。講演では,現地におけるコーヒーの生産出荷のプロセスのみならず,コーヒー生産と自然環境の関わり(いわゆるアグロフォレストリー)から,家計収入におけるコーヒーの位置づけ,さらには拡大家族を基盤とした相互扶助体系まで,現地調査に基づく視点からの多面的な解説がなされた。2000年代初頭には国際取引価格の下落に伴いコーヒー生産は大きな危機に見舞われたが,近年ではフェアトレードを活用したコーヒー生産復興の取り組みが行われるなど,チャガの人々のしなやかなでしたたかな生活実践が紹介された。

第2回:9月5日13:00~17:30
講師:溝内克之氏(青年海外協力協会/JICAタンザニア事務所企画調査員)
演題:「(ロンボ)チャガ人の都市・農村関係―「村」・移動・都市組織」
内容:ロンボ人社会に関する人類学的調査を長年続けている講師によって,ロンボのホームランドの実際の様子,都市におけるロンボ人社会,そして彼らとホームランドとの紐帯の実態が紹介された。講演の随所に織り交ぜられた映像資料は,当地の生活の具体的なイメージを得るうえで大変有意義であった。また,ロンボ人都市生活者およびその相互扶助組織に関する解説は,ロンボ人の現代的な生活実践を理解するうえで重要であるばかりでなく,彼らの「ロンボ人」というアイデンティティとはどのようなものであるか,あるいはどのように変わりつつあるのかという,同時代的な問いを投げかけるものであった。

第3回:9月12日13:00~17:30
講師:阿部優子氏(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所特任研究員)
演題:「タンガニイカ湖周辺の人々とことば」
内容:タンザニア南部のバントゥー系諸言語を長く研究してきた講師による,タンガニイカ湖周辺の言語調査に関する講演であった。前半はタンガニイカ湖周辺の人々の歴史,宗教,生業,文化的習慣等に関する話,さらに同地には京都大学の霊長類研究の拠点であるマハレ山塊があることもあり,霊長類研究をはじめとする他分野の研究者との交流に関する話など,フィールドに出て調査をするということの魅力につまった内容であった。後半は,音声データの聞き取りを含めた言語分析,さらにその結果から推測される当地の人々の移動や接触の話へと展開していった。最後に言語記述によって得られたデータの現地還元についての試みについても紹介があった。

いずれの回も,講師の方々のご好意で,キリマンジャロ・コーヒー(辻村先生)をはじめ現地の飲み物や食物がふるまわれ,普段の聴覚を酷使する研修から,このときばかりは味覚や嗅覚でも現地を感じる講演となった。

6. 授業 詳細

「フィールドメソッドによる言語調査実習」であることを前面に押し出して研修を進めていった。木曜日から始まった研修の第1週,つまり最初の2日間で,バントゥー語およびバントゥー語学の概説と,その文法的枠組みを理解するうえで有益であり,かつ(結果として)研修時の準媒介言語になったスワヒリ語の基本文法の解説を行った。また,音声レベルの記述を一から行うのは困難であることから,この段階で,ロンボ語の実現音声と音韻体系,さらにそれを踏まえた文字表記法について,講師が解説した。
2週目から,早速調査実習に入った。午前の2時間で語彙調査,午後の4時間で文法調査というペースを,研修終了まで維持した。
語彙調査では,単に該当項目に対応する語形を記述するだけではなく,名詞であれば,単複の形式,コピュラと共起する形,その否定形,所有詞と共起する形,等を聞き取っていった。これによって,名詞のクラス,一致形式の同定,トーンパターンなど,付随するさまざまな情報も得ることができる。ただし,同時にさまざまな情報が得られてしまうということは,たったひとつの語彙項目を記述するだけでも相当な労力と分析力が必要になるということも意味する(分節素構造に注意を向けながら,同時に音調の記述を行う,というだけで,慣れるまでは相当な集中力が要る)。そして聞き取った内容を受講生がホワイトボードに書き,全員でその内容を検討し,確認するという作業を続けた。この一連の作業で,(当初は上記項目に加え,動詞との共起形も質問項目に入れていたこともあり)初日は「2時間で2語」を記述して終わった。しかし,1週間後には(動詞共起形を文法調査に回すことにしたこともあり),「2時間12語」のペースができ,最終的には,19日間(38時間)で,220項目余を記述した(調査に用いた『アジア・アフリカ言語調査票』の最も基礎的な語彙であるA語彙200語はすべてカバーした)。
文法調査では,上記『文法調査票』に挙げられた質問項目にしたがって質問し,コンサルタント役のネイティブ講師の返答を記述し,記述したものを受講生がホワイトボードに書いて,全員で検討しつつ,講師が文法的な解説を加えるという形で行った。受講生の理解力の高さもあり当初からスムーズに進んだが,質問項目には直接挙げられてはいないけれども関連するするどい質問をする受講生もおり,それによって,時間はかかったもののより質の高いセッションになった。むしろ時間に関して言えば,講師側の打合せが不十分なところがあったせいで,事前調査とは異なる発話例が(とくに最初の方は)出てくることがあり,それによって不要な時間をとるということがあった。一方で受講生は,当初は英語で質問をしていたが,回が進むにつれ,質問票のスワヒリ語文を用いて,スワヒリ語で質問を行うようになっていった。スワヒリ語文法の概説をし,文法書のコピーこそ配布したものの,それらを使って自習し,自発的に調査実習で媒介言語として使用する,ということは想定だにしておらず,受講生の能力の高さに舌を巻いた次第である。このような受講生の能力の高さによって,(時間数に対してやや多めの項目になるよう設計した)『調査票』の内容は,17日間(68時間)できちんと最後まで辿りつくこととなった

7. 研修の成果と課題 詳細

受講生が(少なくとも彼らにとって)未知の言語と向き合い,フィールド言語学の方法にしたがって,その文法の概略と基礎語彙を記述しえたということが,第一の成果になると考えている。このことが,受講生にとっても,新たな知見や記述の手法を身につけたといった形で成果になりえていたらと願う。さらには,研修の成果を反映した形で,チャガ=ロンボ語の,文法スケッチと語彙集という,この言語にとって初めての言語資料を公にできることが第二の成果である。それとは別に,受講生とネイティブ講師のアポリナリ先生との間に温かな交流が生まれたことも,この研修を行ったことで得られた大きな成果であると考えている。大げさなことを言えば,とくにアフリカ専攻の学部生にとって,この研修が彼らのアフリカとの関わりに対する何らかの展望につながるものだったとしたら,日本のアフリカ学への,あるいは日本とアフリカとの発展的な関係への貢献になる可能性があるからである。

8. おわりに 詳細

まず,忍耐強く研修にあたっていただいたコンサルタント役のモニカ・アポリナリ先生,個人的なつながりに甘えて講師の任をお願いしたにもかかわらずご快諾くださった文化講演講師の辻村英之先生,溝内克之先生,阿部優子先生,言語研修担当の機会を与えてくださった稗田乃先生,さらにAA研の研修担当の先生方,事務手続上のさまざまな局面であたたかいサポートをくださった担当の木本真弓さんはじめ事務の方々に,深く感謝申し上げます。そして,ときには担当講師以上にモニカ先生をケアし,感動を与えてくれた受講生全員に,心から敬意と謝意を表します。

チャム語

チャム語授業風景
研修期間
2014年8月4日(月)~ 2014年9月12日(金)
午前10時00分 ~ 午後4時30分(土曜日・日曜日,8月11日~15日, 9月4日~5日,9月9日は休講)
ただし,8月8日,22日,29日,9月2日,12日は午後5時40分まで

研修時間
115時間

研修会場
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
(〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1)

講師
新江利彦(AA研フェロー)
チュオンヴァンモン(張文門)・サカヤー(ベトナム国家大学ホーチミンシティー人文社会科学大学人類学科専任講師)

受講料
69,000円(教材費込み)

教材
『チャム語教程 Text for Cham language』(Sakaya, 新江利彦)(5.1MB)  正誤表(128KB)
『チャム語語彙集Cham-Vietnamese-English-Japanese Vocabulary 』(Sakaya, 新江利彦)(7.6MB)

講師報告

1. 研修の概要 詳細

○研修期間:2014年8月4日(月)~ 2014年9月12日(金)(土曜日・日曜日,8月11日~15日, 9月4日~5日,9月9日は休講)
○研修時間:115時間
○研修会場:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所

本研修は2014年8月4日(月)~ 2014年9月12日(金)までの22日間,1日あたり5時間(午前2時間,午後3時間),ただし,8月8日,22日,29日,9月2日,12日は1日あたり6時間(午前2時間,午後4時間)の合計115時間実施した。
会場は,アジア・アフリカ言語文化研究所マルチメディア会議室(304)を利用した。

1. 会場設備は,映写機,スクリーン,3つのホワイトボード,十分な数のホワイトボード用マーカー,延長電源コード等,PCと映写機の接続ケーブル,PC用拡声器,ポインタ等完備しており,完璧であった。副教材の複写や単語カード作成のための画用紙手配等についても,AA研事務局から必要かつ十分な支援が得られた。会場としては本郷のサテライトオフィスも魅力的であったが,府中市朝日町のAA研ではなく本郷のサテライトオフィスで授業を行った場合,このような万全な支援体制を得ることは難しいだろうと思った。

2. 研修期間を8月の第一月曜日から9月中旬の金曜日としたことは適切であった。この時期にしたことで,7月末に音声教材を作成・録音することが可能になった。授業開始までに教科書,教案,音声教材が完成しており,授業を滞りなく進めることができた。とはいえ,実施中に新たに教案・教材を作成する時間は,極めて限られた。週5日ではなく4日とし,1日5時間ではなく4時間とし,8月中旬の盆休み以外の休日を減らし,全24日96時間+文化講演4時間=計100時間で行うのが適切であったと反省した。

3. 「チャム語語彙集」の完成・配布が実施中に間に合わなかったことを反省した。

4. 9月12日の午前中2時間,チャム語が属するオーストロネシア語に関するAA研セミナーへの参加をもって授業への参加・出席とした。受講者の多くは言語学全般への関心が大変高く,講師として事前にAA研セミナーについて情報を収集し,100時間中5時間ぐらいの範囲内で,こうしたセミナー参加の出席への読み替えを行うこともよいのではないか。

2. 講師 詳細

○主任講師:新江利彦(AA研フェロー)
○外国人講師:チュオンヴァンモン(張文門)・サカヤー(ベトナム国家大学ホーチミンシティー人文社会科学大学人類学科専任講師)
文化講演者:
中村理恵(Visiting Lecturer, Universiti Utara Malaysia)
遠藤正之(立教大学アジア文化研究所特任研究員)
本多守 (東洋大学アジア文化研究所客員研究員)

1. 主任講師,外国人講師共に男性であったので,会話練習上の困難があった。『チャム語教程』音声教材作成における協力者(女性,埼玉県在住)の講師・会話練習補助者としての参加について,AA研担当教職員に検討を依頼すべきであったと反省した。

3. 教材 詳細

『チャム語教程 Text for Cham language』(Sakaya, 新江利彦)
『チャム語語彙集Cham-Vietnamese-English-Japanese Vocabulary 』(Sakaya, 新江利彦)

1. 教材の内容,作成に際し工夫した点
・初級会話教材であり,かつ文献講読のための基礎学習教材という,二つの異なる機能を兼ね備えた教科書になるよう工夫した。具体的には,二つの近世説話「タバイ王と象牙姫の物語」,「石榴皇子の物語」を教科書修了後の講読教材として準備し(ローマ字転写及び注釈),会話の中にこれらの説話の頻出単語を入れることで,講読への移行を円滑にした。この件に関しては,AA研経費で実施した研修事前調査において,チャム語と同系統の言語・文字体系であるジャウィーやカウィー(古ジャワ語)文献に関する,インドネシア国立図書館,ガジャマダ大学,ウダヤナ大学,グドンキルティア文書館の司書,教員,文書士からの情報提供・意見交換によるところが大きい。
・会話部分は,男女の掛け合いの会話になるよう工夫した。
・大チャンパー史観にも衰退史観にも組しない客観的な歴史観に触れられるよう留意した。
・課ごとに大判の単語カード(1枚のA4画用紙から4枚を切り取り)を作成し,新出単語の導入や,受講者の自学自習の助けとした。

2. これまでの同言語教材のなかでの本教材の位置づけ
・日本ではすでに1960年代に川本邦衛氏による『チャム語階梯』が作成されていたが,川本氏が控えを持っておらず参照できなかったのは残念である。
・ベトナム国内ではチャム文字の綴り方の改正・改悪にかんする非常に政治的で微妙な論議があって,膨大なチャム文字文献講読のための基礎学習教材は,本『チャム語教程』のベトナム語版を除き,いまだ存在しない。『チャム語教程』は建前は文字と会話練習を主眼とするが,会話例など全てはその後の文献講読のために選ばれたもので,日本で二番目に作成された文字・会話教材でありかつ最初に作成された文献講読のための基礎学習教材である。
・今後,初級会話教材の機能と文献講読のための基礎学習教材の機能を分け,文献講読のための基礎学習に特化した教材をつくりたいと考える。

4. 受講生詳細 詳細

1. 受講生の構成・人数・受講動機
・受講者は全6名(男性4名,女性2名),うち学部生1名,大学院生3名,社会人2名であった。学部生(男性)はマレー語専攻者でありマレー語近縁言語としてのチャム語に関心を持っていた。大学院生3名のうち2名(男女1名ずつ)は東南アジア碑文言語の1つとしてのチャム語に関心を持ち,1名(男性)はインド・サンスクリット文化圏に属する非アーリア系言語としてのチャム語に関心を持っていた。社会人2人(男女1名ずつ)はいずれも東南アジア言語またはムスリム言語を体系的かつ広範に学ぶAA研夏季言語研修の常連受講者であった。主な動機は学習と研究である。チャム人地域では2020年にニントゥアン第二原子力発電所建設を着工すべく両国で準備中であるが,現実のチャム人社会に対する社会学的・人類学的・経済学的アプローチや,チャム人地域での勤務等に関心のあるものは今回の受講者にはいなかった。

2. 出席状況や修了人数
・学部生1名と大学院生2名は9月3日以降すべて欠席した。
・1名は8月中は病欠が多いながらも『チャム語教程』学習中は出席していたが,9月はじめに文献講読に移行してからは全て欠席した。
・東南アジア碑文言語の1つとしてのチャム語に関心を持つ大学院生2名は9月4日よりフィールドトリップがあり,欠席せざるを得なかった。
・1名は出席日数が足りず評価できなかった。それ以外の5名は全て優秀な成績で修了した。

5. 文化講演 詳細

1. 予定していた文化講演者のうち,女性1名の講演がお子さんの健康の都合で中止となったことは残念であった。

2. 毎週金曜最終時限に実施後,講演者を交えた懇親会を行うことで,受講者と講演者の交流が実現すると共に,主任講師・外国人講師と受講者も親しむ時間を持つことができてよかった。

3. 3人の文化講演者の発表はいずれもよく準備されたすばらしいものであった。本多守氏のみ公開講座としたが,当初より全て公開講座として事前通知すべきだったと反省した。

6. 授業 詳細

・予習,復習は授業中に行うこととし,宿題を課さなかった。
・受講者同士で単語学習や会話練習を行う時間を十分に取った。
・外国人講師による単語発音や会話見本を行うことを徹底し,また音声教材を活用して(授業中も使用),ネイティブの発音をしっかり身につけさせる。
・講師は単語発音や会話見本や文法説明のほかは喋らないよう努力する。
・80時間で文字と会話13課を学び,25時間で最後の2課と教科書にない説話(石榴皇子の物語)を読んだ。
・文字と会話学習においては,サバイバル会話及び前課の新出単語・文法・文例の復習(新しい課のはじまり)→新出単語・新出文法・新出文型→会話練習→定着練習→課題小テスト→講評(その課の最終時限)というサイクルを,ほぼ2日に1サイクル実施した。

7. 授業 詳細

1. 成果
・教科書の内容をすべて修了した。
・説話二本を読了した。

2. 課題 ・閉講・修了に先立ち,5名の受講修了者全員に,フランス極東学院作成の「チャム写本集成デジタルバージョン」全編と,東京外国語大学作成「チャム王家文書デジタルバージョン」全編を提供したが,「チャム語語彙集」を同時に提供できず,自学自習が困難な状態にある。
・実施中に「チャム語教程」の誤字脱字が複数個所新たに判明し,正誤表を拡充した上で,URL上で公表する必要がある。
・「チャム語語彙集」を修了者に提供する必要がある。

8. おわりに 詳細

1. 研修を終えての感想
・今回の研修で一番良くチャム語を勉強したのは(勉強できたのは)わたくしたち二人の著者ではなかったかと思います。
・優秀で熱心な受講者のみなさんと楽しく勉強できました。
・社会人のお二人が作成した「東南アジア言語基本語彙対照表」と「チャム語基本文法集」は本研修のすばらしい副産物です。ぜひ,それぞれのURLで公開なさってください。

2. 教材作成に際してお世話になった方々への謝辞
・インドネシアとベトナムのすべての友人
・インドネシア国立図書館,ガジャマダ大学,ウダヤナ大学,グドンキルティア文書館の司書,教員,文書士のみなさん,ブリタ書店のおやじさん
・京都大学東南アジア研究所ジャカルタ連絡事務所のみなさん
・フランス極東学院ジャカルタ・センターのみなさん
・フランス極東学院クアラルンプール・センターのみなさん
・ベトナムのチャムの村のみなさん
・ベトナムのニントゥアン省文化体育観光局,ビントゥアン省文化体育観光局,ユネスコ・チャム文化研究保存センターのみなさん
・音声教材作成協力者のかた
・音声教材作成スタジオのかた
・教材印刷出版社のかた
・AA研所長ならびに教職員のみなさん
・受講者のみなさん,
ありがとうございました。

3. おわび
 本実施報告書ならびに「チャム語語彙集」の提出が10月9日の締め切りより大幅に遅れましたことをお詫び申し上げます。

タイ語中級

タイ語中級授業風景
研修期間
2014年8月18日(月)~ 2014年9月12日(金)
午前9時00分 ~ 午後4時40分(土曜日・日曜日は休講)

研修時間
120時間

研修会場
大阪大学箕面キャンパス
(〒562-8558 大阪府箕面市粟生間谷東8-1-1)

講師
宮本マラシー(大阪大学大学院言語文化研究科教授)
村上忠良 (大阪大学大学院言語文化研究科准教授) 
デンスパー・スワッタナー(大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程大学院生)
トラカーンタロンサック・ターンポーン(大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程大学院生)
セーリム・パンニー(大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程大学院生)
ドゥアンケーオ・パオサタポーン(大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程大学院生)
ラッタナセリーウォン・センティアン(大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程大学院生)
ダナサーンソムバット・ジャルナン(タイ国元日本留学生協会附属日本語学校非常勤講師 / フリーランス翻訳者)

受講料
72,000円(教材費込み)

教材
『サヌック:中級タイ語の会話と文法SANUK: Intermediate Thai Conversation and Grammar』(宮本 マラシー)(5.4MB)  正誤表(39KB)
『中級タイ語分野別語彙集 Vocabulary for intermediate Thai language course』(村上 忠良)(1.5MB)

講師報告

1. 研修の概要 詳細

○研修期間:2014年8月18日(月)~ 2014年9月12日(金)(土曜日・日曜日は休講)
○研修時間:120時間
○研修会場:大阪大学箕面キャンパス

本研修は2014年8月18日(月)~ 2014年9月12日(金)までの20日間,1日あたり6時間(午前3時間,午後3時間),合計120時間実施した。
会場は,大阪大学箕面キャンパスE棟3階学術交流室を利用した。

2. 講師 詳細

主任講師
宮本マラシー(大阪大学大学院言語文化研究科教授)
講師
村上忠良(大阪大学大学院言語文化研究科准教授)
外国人講師
デンスパー・スワッタナー (大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程)
トラカーンタロンサック・ターンポーン(同上)
セーリム・パンニー(同上)
ドゥアンケーオ・パオサタポーン(同上)
ラッタナセリーウォン・センティアン(同上)
ダナサーンソムバット・ジャルナン(タイ国元日本留学生協会附属日本語学校非常勤講師 / フリーランス翻訳者)
文化講演者
宮本マラシー(大阪大学大学院言語文化研究科教授)
村上忠良(大阪大学大学院言語文化研究科准教授)

3. 教材 詳細

『サヌック:中級タイ語の会話と文法SANUK: Intermediate Thai Conversation and Grammar』(宮本マラシー)
『中級タイ語分野別語彙集 Vocabulary for intermediate Thai language course』(村上忠良)

1.『サヌック:中級タイ語の会話と文法SANUK: Intermediate Thai Conversation and Grammar』(宮本マラシー)
 本教材は,中級タイ語の学習者を対象にするため,タイ語は,発音符号を付けずにタイの文字のみで表記されています。様々な上下・親疎・同異性にある人間関係の人々が実際日常生活で交わしていると想定される会話文,実用度が高そうな語彙,慣用句,様々な表現や言い回しの文法説明,例文,そして練習問題で構成されています。受講生には,能力の差があるだろうと想定していたので,複雑で難しい言い回しでも,出来るだけ簡単な表現で説明し,分かりやすい例文を取り上げることにしました。研修終了後でも,独学で復習できるように練習問題の解答例も付けました。

2.『中級タイ語分野別語彙集Vocabulary for intermediate Thai language course』(村上忠良)については,特定のトピックについて書かれた中級レベルのタイ語の文章を読んでいくうえで利用できるよう,必要と思われる分野別の語彙をまとめました。実際には中級以上の語彙も収録し,中級~上級の学習で利用できるように作成しました。

4. 受講生詳細 詳細

受講生が2名で,年齢的にも比較的近かったので,早く打ち解け,リラックスして学習できる状況でした。欠席日数・時間がほとんどなく,少人数であったので,学習者のレベルに合わせて,個別指導を綿密にすることができました。また両名ともにタイに滞在経験があり,一人は高校生の時にAFSの奨学金を受けてバンコクの高校で,もう一人は交換留学生として,タイの大学でタイ語を学んだことがあります。帰国してから,タイ語を使う機会が少なくなったこともあり,受講動機は,主にタイの友人や知り合いとの間のコミュニケーションをずっと続けたいということだそうですが,その中の一人は,就職先がタイにも支店があるので,タイに赴任されることもあるかもしれません。いずれにせよ,2人とも研修終了後に何らかの形で学んだタイ語を使うことが期待できると思います。研修中,2人は仲も良く,最後まで熱心に受講し,教室の外でも積極的にタイ語を使っていました。

5. 文化講演 詳細

[担当講師:宮本マラシー]
① 8月19日「談話・会話に見るタイ人のものの考え方」
談話・会話に出てくる表現,およびそれらの表現に見られるタイ人のものの考え方を,日本人のそれと比較しながら話しをしました。受講生は,過去タイ人との間のやり取りにあった話などをとりあげて,講師との間で意見交換を行いました。全体で約2時間で終了しました。

② 9月2日 :「タイのテレビドラマに見る女性」
タイの劇とドラマの歴史,そしてテレビドラマに描かれている女性像の過去と現在について,テレビドラマのいくつかのシーンを見せながら説明しました。受講生は2人とも女性のためか,女性の話になると非常に関心を示していました。特に,テレビドラマのことなので,演じられているそれぞれの人物像が分かりやすく興味を持ちやすかったと思います。講演が終わってからも,言葉の勉強のためにもタイのドラマを見たいと申し出があったので,いくつかのドラマを紹介しました。この講演は3時間弱かかりました。

[担当講師:村上忠良]
① 8月26日:「タイ国内のムスリムの現状について」
② 9月9日 :「東南アジア大陸部西南中国の四角地帯の少数民族シャン」  言語だけではなく,文化・社会に関する内容の講義も興味をもって聞いていました。

6. 授業 詳細

午前の授業3時間と午後の授業3時間に分け,第1週目は午前に「会話と文法・表現」,午後に「文章読解」の授業を行い,以降1週ごとに「会話と文法・表現」と「文章読解」を午前・午後を交代しながら授業を進めました。

受講生は2人だけということもあり,会話の授業では,受講生と講師との間に自由に会話 を交わす時間をたっぷりとることができました。さらに9月4日と10日は出席が一人であったため,その方の希望のタイの映画を鑑賞し,映画のセリフに出てきた表現や言い回しをじっくりと勉強することができました。

「文章読解」の授業に関しては,特定のテーマについて書かれた比較的短いエッセイや歌の歌詞などのテクストを日本語へ翻訳する作業を通して,分かち書きせず句読点もないタイ語の文章の「読み方」を学習しました。またテクスト内に出てくるテーマに関する語彙の学習も行いました。ネイティブ教員には,タイ語文章の正しい発音での読み方,テクストとは別の文章表現の可能性や,語彙の用法の説明をしてもらいました。

7. 研修の成果と課題 詳細

1日6時間の集中講義で受講生が2人しかいなかったため,受講生にとっては集中力を持続するのに大変だったかも知れませんが,一方,個性の違う6名のネイティブの講師の発音や話し方などから,いろんなタイ語をたくさん聞くこと,さまざまな話題について会話を交わすことができたため,受講生にとっては充実した有意義な時間を持つことができたと考えられます。文章読解に関しては,受講生がタイ語の文章を読む機会が少なかったので当初はかなり苦労しましたが,特定のトピックについて書かれたタイ語文章を辞書を引きながら読み,その内容を把握するレベルにまで到達することができました。課題は短期集中型という形式で,読める文章の量が限定されたため,トピックの内容が限定された点です。

8. おわりに 詳細

より幅広く日本人タイ語学習者の間に本研修が貢献できるかどうかには,実施時期,時間数,場所などが今後の課題となるでしょう。

2014年度 言語研修募集要項

この研修はアジア・アフリカ地域での現地調査・研究や専門的業務に役立つ現地語の習得を目指す短期集中型語学研修です。
日本の専門研究者と母語話者とが一緒に教授にあたる生きた言語教育である点が特徴です。
今年度は,チャガ=ロンボ語,チャム語,タイ語中級の言語研修を別記実施要領に基づいて実施しますので,受講希望者は下記により申し込んで下さい。

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募集要項(共通事項)

1. 募集言語チャガ=ロンボ語,チャム語,タイ語中級
2. 募集人員各言語 約10名
3. 募集期間2014年5月1日(木)~ 2014年5月28日(水)(土・日・祝日を除く)
午前9時30分~午後5時
郵送の場合は,5月28日(水)必着です。
第二次:2014年6月9日(月)~ 2014年6月27日(金)
郵送の場合は,6月27日(金)必着です。
*募集は終了しました
4. 応募資格上記の目的に必要な学力及び社会的経験を有する人。
また,タイ語中級の受講希望者は,募集要項の4ページ目に記載されている文章を読み,基準をクリアしているかどうか,必ず自己診断してください。
5. 応募方法所定の受講申込書に記入の上,在学証明書又は最終学校の卒業証明書(写)を添えて,下記「11。申込み先」に申し込んで下さい。
※申し込み方法は,直接持ち込みまたは郵送のみとします。
※封筒の表に「言語研修○○語申し込み」と朱書き願います。
申込書:wordファイル
6. 選考方法当研究所で書類審査により選考します。
7. 選考結果受講の可否は,6月下旬までに本人あてに通知します。(第一次募集)
第二次募集については,7月上旬に本人あてに通知します。
8. 受講手続受講を許可された者は,所定の期日までに,研修言語ごとに定められた額の受講料を一括納付して下さい(受講料額:各言語別記参照)。
9. 修了証書研修言語ごとに定められている授業時間数の3分の2以上出席し,かつ所定の成績を収めた受講者に修了証書を交付します。
10. そ の 他文化講演として,担当講師以外の外部講師を招いた授業を取り入れています。文化講演は一般向けに公開することがあります。
11. 申込み先東京外国語大学/研究協力課共同研究拠点係
〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所2階206室
TEL 042-330-5603, FAX 042-330-5610
Email kenkyu-zenkoku[at]tufs.ac.jp [at]を@に置き換えて下さい。


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