『イスラーム世界がよくわかるQ&A100』
6. 悲喜こもごも、しきたりとレジャー ----- イスラーム世界は神秘的か
Q82: カフェでトランプをしているようですが、お金を賭けているのでしょうか。

A82: 賭けているかいないかは当人に尋ねてみないとわかりませんね。イスラーム法では、次のコーランの章句から一般に賭博は酒と並んで禁止の対象とされました。

酒と賭け矢についてみんながお前に質問してくることであろう。答えよ、これら二つは大変な罪悪ではあるが、また人間に利益になる点もある。だが罪の方が得になるところより大きい、と。(2章219節)

ここでいう「賭け矢」はマイスィルとよばれ、ムハンマド以前のアラビア半島でとても好まれていたといいます。矢を籤のように引き、「幸矢」を引いた人が賭のラクダを獲得する、ということになっていたそうです。当時は気前の良さを誇るところがあり、それが高じて法外な賭けが行われていたことをムハンマドが諌めたようです。

こうして賭博は処罰の対象となり、厳しいときには鞭打ちの刑にまで処せられました。しかし、学者や著述家たちが賭博や賭博の道具に言及しその是非を論争し続けたことが諸文献に残っているところをみると、賭博が消えることはなかったのでしょう。

賭けの対象となったであろう競技・ゲームは多種にのぼります。動物を使うものとしては、なんといっても競馬が広く好まれていました。軍事訓練を兼ねる、と競馬擁護論者は主張しました。そのおかげかアラブ世界では質の良い馬が育てられました。ヨーロッパの競走馬の大半がアラブ馬の血統を誇ることはご存じでしょう。人馬一体となって競技するポロも古くからありました。ポロは中央アジア・ペルシア起源だといわれます。イスラーム都市を特徴づける広場(マイダーン)は、都市民の物品や情報交換、憩いの場であったのみならず、これらの競技場としても機能しました。ラクダレースは今日でも湾岸諸国で楽しまれています。また、鳩のレースも歴史があり、今日でも人気があります。南アジアや東南アジアの闘鶏も有名です。

さいころ賭博も行われてきているようです。今日私たちがよく使う六面体のさいころだけでなく、村落部ではさいころの原型である動物の骨でできた賽を使っていました。

チェスはインド起源でイスラーム世界を通ってヨーロッパに入りました。十字軍でエルサレム近郊にやってきたヨーロッパの王侯や騎士はイスラーム教徒とチェスをやっていたようです。

盤上ゲームでイスラーム世界からヨーロッパに入ったものにバックギャモン(今日のアラビア語ではターウィラという)があります。これはナルドという遊びが南イタリア、あるいは南スペインに入ってヨーロッパに広まったと言われています。

ご質問にあるトランプですが、近年、マムルーク朝の遺跡からトランプの原型と思われるカード類が発掘され、トランプ遊びもイスラーム世界からヨーロッパに入ったのではないか、と論議になりました。

イスラーム世界の人々は、カフェや喫茶店(Q81参照)などでこのような遊びに興じていたのです。
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