『イスラーム世界がよくわかるQ&A100』
3. 経済と社会のモノサシ ----- 開発を妨げていないか
Q41: ルクソールで日本人が殺されたのには驚きました。今後の中東観光にはどんな注意が必要ですか。

A41: 古代エジプトの都ルクソールで日本人観光客を襲ったのは、イスラーム集団という名の過激派組織でした。彼らはもう20年近くもエジプト政府と血で血を洗う復讐戦を繰り広げており、日本人観光客はそのとばっちりを受けたのです。1992年以降、外国人観光客を襲撃する旨の警告は再三出されていましたが、本来のイスラーム集団はそれでも、外国人をいきなり無差別殺戮するほど狂暴ではありませんでした。しかし、政府による弾圧で多くの指導者が逮捕されたり、国外に逃亡した結果、軍事部門が組織の中枢を握り、今回の暴挙に及んだのです。犠牲になられた方々には、ただただ不運というよりほかありません。

もっとも、イスラーム主義者がすべて、外国人観光客を敵視するわけではありません。レバノンのヒズブッラーは、内戦終結以来むしろ積極的に外国人観光客を誘致しています。とはいえ、トルコ東部やイスラエルの一部など反政府勢力と軍が恒常的な緊張状態にある地域もありますから、十分な情報収集のうえお出かけください。

特別危険な風土病はありませんし、必ずうけてゆかなくてはいけない予防注射も指定されてはいません。ただ、地方を長く旅行していると肝炎にかかることがあるようです。旅行先での体調の維持は結構難しいものです。中東の水が体に合わない人は、まま、います。水が汚染されているというわけではなく、水に溶けこんでいるミネラル分の組成などが日本の水と違って石灰分が多いために胃腸が過敏に反応してしまうようです。ですから、これも平凡なことですが、生水は飲まないように。中東の人はお茶(紅茶)を振る舞うことが多いですし、たいがいの町に必ず一軒は喫茶店(チャイハナ、マクハー)がありますから、なにか飲み物を、ということになったら、お茶を飲むのがまず無難です。

食べ物については、当回答者は肉も野菜も海産物もおいしく食べて何の問題もありませんでしたが、こればかりは、個人差が大きいので一概には言えません。自分の体調・体質と相談しながらメニューを選んでください。どうしても食べ物があわなかったら、パンとバターと紅茶でしのぐことですね。伝統的な平べったいパンはどこでも簡単に入手できますから、それが食べられるでしょう。

服装については、行く季節、行き先によって違ってきます。季節によってもだいぶ気候が違いますが、海岸部と内陸部の違いもかなり大きいです。また、同じ内陸部でも標高によってずいぶん違いますから、旅行スケジュールをにらんで、ガイドブックや旅行社で調べて下さい。地方へ行くのならば、夏でもなるべく肌を露出しない服装をお勧めします。土地の人たちが肌を露出させない服装をしている(Q94参照)ところで妙齢の女性がタンクトップに短パンなどで歩き回ると、無用な誤解を招いて不愉快な思いをすることも充分考えられます。なお、一枚、大判のスカーフかショールをもって行くと便利です。温度調節にも役に立つし、モスクに入って中を見たいときに髪を覆うように言われたら(言われないことも多いですが)頭にかぶれるし、風呂敷のように荷物を包むこともできます。

旅先での現地の人との交流は、上手くいったときには何物にも代え難い思い出になりますが、失敗したときは悲惨です。旅行を味気なくさせない程度に他人は疑ってかかった方がいいでしょう。睡眠薬入りの飲み物を親切ごかしに飲まされてひどい目にあう事件もあとをたたないようです。行きたくもない場所に案内されたり買いたくもないものを買わされたりするのは、ある程度はやむを得ないかもしれません。甚大な被害でなければさっさとつまらないことは忘れることです。

最後に女性旅行者の皆さんへ、男性とのおつきあいについて一言。小姑のようなことを言うのは自分でもいやなのですが、中東の観光地では一般に、日本人の女は騙しやすい、良い金蔓になる、「ただのり」できる、という評判が少しずつ広まっているようです。あちらの男性はその気になると熱心にアピールしてくることが多いようですから、さぞかし誘惑は大きいことでしょうが、起こりうる厄介ごとをいったん思い浮かべてからおつき合いを考えた方がいいと思います。そして、もしトラブっても情けない対応はしないこと。自分の立場をきちんと主張した上で、逃げ出すなり、蹴っとばすなり、あきらめるなり、大人の女として決断して下さい。良い旅行をお祈りします。
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