新任スタッフ紹介 Vol.98:角田 哲朗
2026.05.01
彼らの頭の中身に興味がある
角田 哲朗
(2026年4月JSPS特別研究員着任)

世に終末論が蔓延っておりますが、いかがお過ごしでしょうか。私の研究対象とする中世から近世にかけてのイランでは、どうやら終末の日の到来は相当の真実味をもって受け入れられていたようです。その証左として、ティムール朝期には、メシアを称する神秘家たちが宣教活動を活性化させ、その帰結としてサファヴィー朝が成立しました。翻って、同時代の既存政権に仕える多種多様な宮廷知識人たちも、その専門性を活かして、君主にメシアたる資格があることを証明しようしました。
実のところ、15世紀と続く2世紀の間は、広くユーラシア規模でメシア主義が共時的に高揚した時代でした。コロンブス然り、サヴォナローラ然り、ノストラダムス然り。そして小アジア、イラン、インド。これらの類似の現象が同時多発的に生起した背景には、相互接続をひとつの特徴とする近世性があったのか。この論点を提起したとある研究者は結論を措きつつも、一般化(ジェネラリゼーション)は重要な作業ゆえにジェネラリストには任せておけぬと宣言しており、私もこれに同意します。
私が具体化を試みる対象とは、当該時代にペルシア語圏で活動した自称メシアたちの頭の中です。彼らは聖典の知識はもとより、神秘主義思想やオカルト科学といった我々には馴染みのない、しかし当時普及していた思想資源を総動員することで、自らのメシア性を構築し、支持者の獲得に勤しんでいました。彼ら自身の著作、あるいは彼らをメシアと仰ぐ弟子たちの注釈文献などが私の研究素材です。彼ら自称メシアたちの活動それ自体は不明な点が多く、異説も多分にあります。その一方で、彼らの著作は殆どが写本図書館に埋もれたままとなっており、様々な論点を秘めた金脈として眠っています。
さて、私は歴史学の具体性を好みます。神秘主義思想などという空論は抽象の極みでは?と訝しむ向きもあるかもしれません。しかし、私は思想文献ほど具体的なものはないと確信しています。なぜならば、そこには過去に人物の思考がそっくりそのまま写し出されているのですから!とある教義書の写本を読んでいるときに、14世紀末に生きたとある自称メシアが言いたかったことが直接こちらの脳に注ぎ込まれているという事実を実感した際の衝撃は忘れることはできないでしょう。
余談ですが、思想文献を扱う私には、歴史研究者とは別の特権も頂戴していると思っています。それは、私が著す論考が、学術論文でありつつ、それと同時に原著に対する最新の注釈書でもあるという側面を備えている点です。言わば、私は、同一の師を巡り、その弟子たちとある意味で立場を同じくしているのです。勿論、私の見識は彼らにまだまだ及ぶべくもないのですが、なんと挑戦しがいのあることでしょう!