今月の一枚 2025年12月:モザイク・タイルに隠されたモスクの建立年を読み解く
2025.12.01
こちらにはひと月に一度,AA研スタッフや共同研究員がフィールド調査の際に撮った写真を載せています。
(写真の著作権は撮影者にあります。無断・無許可でのご使用は固くお断りします。)

撮影者が南アジアの史跡を巡る際の愉しみには二つある。
第一は、建材と装飾技法を観察することである。写真に写っているのは、ラーホールのワズィール・ハーン・モスク(ヒジュラ暦1044/1634–35 年建立)の正面入口を飾るモザイク・タイルである。間近で見ると、様々な色に施釉されたタイルが、意図するデザインに合わせて打ち砕かれ、それらが精巧に嵌め合わされることで、全体の装飾が構成されていることに気づくだろう。この技法は、14 世紀末以降、中央アジアで好んで用いられ、ムガル朝(1526–1857年)期には南アジアにも広まった。
第二は、建築銘文に含まれるクロノグラム(各文字に割り当てられた数値を合計して年代を示す句)を解読することである。
青色のタイルから成るペルシア語銘文には、以下の二句が記されている。
我はこのいと高く尊いモスクの建立年を英知に尋ねた
[すると英知は]こう答えた、「『有徳の人々の礼拝する場 sajdih-gāh-i ahl-i fażl』である」と
我はその建立年を英知に尋ねた
[すると英知は]こう答えた、「言え、『モスクの建立者、ワズィール・ハーン bānī-yi masjid Vazīr Khān』である、と」
この、「有徳の人々の礼拝する場」と「このモスクの建立者、ワズィール・ハーン」の語句には、クロノグラムが巧妙に織り込まれている。
前者sajdih-gāh-i ahl-i fażl(ラテン文字転写で “SJDHGAH AHL FŻL”)のクロノグラムの合計は、S (60) + J (3) + D (4) + H (5) + G (20) + A (1) + H (5) + A (1) + H (5) + L (30) + F (80) + Ż (800) + L (30) = 1044 となる。これに対し、後者 bānī-yi masjid Vazīr Khān(ラテン文字転写で “BANY MSJD VZYR KHAN”)のクロノグラムの合計は、B (2) + A (1) + N (50) + Y (10) + M (40) + S (60) + J (3) + D (4) + V (6) + Z (7) + Y (10) + R (200) + KH (600) + A (1) + N (50) = 1044となる。すなわち、いずれも、計算結果は1044である。
この数は、ヒジュラ暦表記でのワズィール・ハーン・モスクの建立年にあたる。ヒジュラ暦1044年は、西暦1634–35年に相当する。
2025年2月24日
パキスタン、パンジャーブ州ラーホール
神田惟