新任スタッフ紹介 Vol.95:本間 流星
2026.04.22
苦手なりにフィールドと付き合う——思想研究という活路
本間 流星
(2026年4月JSPS特別研究員着任)

私はインド・パキスタンを中心とする南アジア地域のイスラーム思想を,現地語で書かれた思想文献の読解を通じて研究してきました。私は2024年に京都大学のアジア・アフリカ地域研究研究科で地域研究の博士号を取得したので,正式には南アジア地域研究の専門家ということになります。
地域研究とは,特定地域の政治・経済・宗教・文化・歴史などを学際的に探究し,当該地域の固有性やグローバルな関連性の解明を目指す学問です。地域研究にとって,対象地域に関する豊富な知見は重要ですが,それを得るためには長期間のフィールドワークが不可欠になってきます。つまり地域研究者には,外国の土地に一定期間滞在し,現地の慣習や文化に適応しつつ研究を進めるだけの体力と精神力が備わっている必要があります。
しかし,このような地域研究の特性を踏まえると,私は地域研究者に向いているとは必ずしも言えなくなってきます。長期間の現地調査を行える程の体力も精神力も,私は持ち合わせていないからです。
私と南アジアの関わりは学部時代に遡ります。東京外国語大学でウルドゥー語を学び,3年次にはヒンドゥー教の聖地バラナシの大学に1年間留学しました。留学前にも長期休みを利用してインドに一人旅し,北インド各地を周遊する中で最も気に入った街がバラナシだったので,バラナシに住めたら楽しいだろうなという単純な動機で留学を決めました。しかし,この決断が大間違いで,旅行での短期滞在と留学での長期滞在は全く違うのだということを痛感しました。「最もインドらしい街」であるバラナシの混沌と喧騒,観光客慣れした厄介なインド人,スパイスと油まみれの食事の全てが,ものの数ヶ月で嫌になり,部屋に引き篭って日本に帰ることばかりを考える始末…。留学中にインドのムスリムに関心を持ち,研究者を志すようになった一方で,自分にインドは向いていないということも留学中に実感しました。
インドへの苦手意識を克服せずして,どのように南アジア地域研究を進めていくべきか。そこで私が見出した道が文献学・思想研究です。地域研究では,フィールドワークに加えて現地語文献の読解も有効な手法の一つに含まれます。インドに直接赴くのは極力避けたいが現地への知的関心はある私にとって,文献を介して言わば間接的にインドを感じられる思想研究は理想的な手法でした。思想研究の最大の魅力は,(特に今は亡き)偉大な知識人が残した叡智の結集に文献を通して触れられる点にありますが,フィールドとの距離を保ちつつもフィールドを味わえる点も魅力の一つだと思います。私にとって思想研究は,苦手なりにフィールドと付き合うための活路なのです。
とは言え,思想研究に必要な文献もフィールドに行かないと手に入らないので,この間およそ10年ぶりにインドに行ってきました。2週間の短期滞在だったのですが,やはり長期滞在は難しいと感じました。