Publicationsノス・イ語

ノス・イ語

研修概要

研修期間

2025年8月18日(月)~2025年9月5日(金)
午前9時00分~午後3時40分(8/18~8/29)(土曜日、日曜日は休講)
午前10時40分~午後3時40分(9/1~9/5)(土曜日、日曜日は休講)

研修時間

75時間

研修会場

大阪大学 箕面キャンパス
(〒562-8678 大阪府箕面市船場東3-5-10)

講師

主任講師:
林 範彦(はやし のりひこ)神戸市外国語大学外国語学部教授

ネイティブ講師:
沈宏(しんこう、シェンホン)眉山薬科職業学院教員(助教)

受講料

45,000円(教材費込み)

教材

1.『ノス・イ語 基礎知識と会話』(林 範彦、沈宏(編))

2.『ノス・イ語 語彙集』(沈宏、林 範彦(編))

文化講演

日時:2025年9月3日(水)、9月4日(木)
講演者:朴小林(兵庫大学大学院現代ビジネス研究科修士課程)

講師報告

1.研修の概要

○研修期間:
2025年8月18日(月)~2025年9月5日(金)
午前9時00分~午後3時40分(8/18~8/29)(土曜日、日曜日は休講)
午前10時40分~午後3時40分(9/1~9/5)(土曜日、日曜日は休講)
○研修時間:
75時間
○研修会場:
大阪大学 箕面キャンパス

本研修は2025年8月18日(月)から2025年9月5日(金)までの15日間、8月18日(月)から8月29日(金)は1日あたり5.5時間、9月1日(月)から9月5日(金)は1日あたり4時間 合計75時間実施した。
会場は、大阪大学 箕面キャンパス 外国学研究講義棟(519教室)を利用した。

2.講師

○主任講師:林 範彦(はやし のりひこ)神戸市外国語大学外国語学部教授

○講師:沈宏(しんこう、シェンホン)眉山薬科職業学院教員(助教)

○文化講演者:朴小林(ぼくしょうりん、プーシャオリン)兵庫大学大学院現代ビジネス研究科修士課程

3.教材

 

  1. 『ノス・イ語 基礎知識と会話』(林 範彦、沈宏(編))
  2. 『ノス・イ語 語彙集』(沈宏、林 範彦(編))

ノス・イ語に関しては、中国においてすでに多数の教材が出版されている。しかしそれらの多くは、文字習得を目的としたものや、伝統的生活を背景にした会話教材、あるいは文法解説を中心とするものであった。これらの教材が有用であることは言うまでもないが、今回我々が作成したテキストの特色は、会話や例文の内容を現代のノス・イ語話者の生活実態に即したものとした点にある。
さらに語彙集については、ネイティブ講師の母語である金河方言の形式を基準に配列し、それに日本語および広く知られている標準的な方言の形式を併記する方式を採用した。金河方言と標準方言の間には大きな差異はないものの、細部において一定の相違が存在する。この金河方言の記述を行ったこと、そしてノス・イ語=日本語、日本語=ノス・イ語という双方向の対照語彙(約三千語)を体系的に収録した点において、本語彙集は現時点で唯一の存在であると評価できる。

4.受講生詳細

本研修の参加者は計6名であり、その内訳は、すでに大学で教員あるいは非常勤講師として活動している方3名、海外からの大学院生1名、一般参加者2名であった。いずれの参加者も、すでに他のアジア諸言語の学習経験を有しており、研修期間中には活発な議論や質問が展開された。
海外からの大学院生については、日本語でのコミュニケーションに一定の困難を抱えていたが、英語や中国語による質疑応答が可能であったため、疑問点の解消は相応に達成されたと考えられる。また、一般参加者のうち1名は、これまでにも独習によってノス・イ語に取り組んでおり、研修期間中にも積極的かつ示唆に富む質問を行った。この点は、研修全体の進行において大いに貢献するものであった。
出席状況は全般的に良好であり、最終的に6名全員が研修を修了した。

5.文化講演

2025年9月3日と9月4日に行った。講師は朴小林氏に依頼した。日本語での講演を行っていただいた。
9月3日には「イ族の伝統的な行事―イ族のお正月と松明祭り(火把节)」をテーマに、イ族の人々の新年行事である「クシ」、および新暦7月から8月にかけて行われる松明祭り(火把节)について解説をいただいた。松明祭りは、若い男女が結婚相手を見つける場としての役割を担うこともあり、そうしたエピソードについても動画を交えて明快に説明がなされた。加えて、この日の講演では講師自身が実際の民族衣装を着用し、さらに複数種類の民族衣装を受講生に示した。これにより、祭礼や文化的背景を視覚的に理解する機会ともなり、受講生にとって一層印象深い学習体験となった。
9月4日には「イ族の伝統的な婚葬式文化」をテーマに、イ族に伝わる婚礼および葬式の様子を写真資料とともに解説いただいた。イ族は伝統的に階層社会を有していたため、どの集団がどの集団と婚姻可能かについて厳格な規範が存在してきた。その中で、仲人を介して結婚相手を見出す方法なども紹介された。講演では、花嫁を迎える場面から儀式の過程、さらに里帰りに至る一連の流れが丁寧に説明された。葬式に関しては、臨終を迎えた死者の霊を「ピモ」と呼ばれる宗教職能者が儀礼を通じて天に送る過程について、多数の写真を示しながら詳細な解説が行われた。
いずれの回においても、受講生から積極的な質問が寄せられ、講師がそれに明快に応答していた点が印象的であった。これまで研修は言語面に重点を置いて進められてきたが、今回のようにイ族独自の祭礼や民族衣装、儀礼に関する解説は、受講生にとって極めて刺激的かつ有益な学びとなったと考えられる。

6.授業

授業は主任講師が全体のコーディネーター、あるいはナビゲーターの役割を担い、ネイティブ講師は発音指導および母語話者の立場からの解釈と説明を担当した。主任講師は全体のスケジュールを統括しつつ、スライド資料を用いて内容の確認や補足説明を行った。
全体日程のうち、初日はノス・イ語の発音練習および言語的背景の確認を中心に実施した。受講生は発音習得が早く、円滑な滑り出しとなった。第二日目以降は、会話および基礎知識を盛り込んだ各課の内容を順次進めていった。まず、スキットをネイティブ講師が音読し、それに基づいて受講生全員で発音練習を行った。その後、主任講師がスキットの各例文の構造についてネイティブ講師と確認しつつ、適宜受講生との質疑応答を行った。続いて、各課に設けられた文法ポイントのコーナーについても、ネイティブ講師とやり取りを交えながら確認を進めた。この過程において受講生からは積極的な質問が寄せられ、理解の深化に大きく寄与したと考えられる。
練習問題については時間的制約のため授業内では十分に扱うことができなかったが、講師側で用意した解答例を受講生に提示した。復習問題のうち、特にリスニング問題に関しては授業内で取り上げ、ネイティブ講師による発音を聞き取り、内容に即した選択肢を選ぶ形式で解答を求める時間を設けた。
全体としては第31課までの教材を準備していたが、第25課までを実施した。残りの課については練習問題の解答例を受講生に提示したものの、今後フォローアップミーティングの機会が得られれば、未履修の課についても取り扱うことを検討している。

7.研修の成果と課題

上述のとおり、受講生の積極的かつ意欲的な姿勢に支えられ、本研修は終始良好な雰囲気のもとで進行し、充実した質疑応答を通じて受講生全員のノス・イ語理解が大きく深まったと考えられる。ネイティブ講師が日本語も堪能であったため、質疑応答も極めてスムーズであった。この点は本研修の大きな成果と位置づけられる。
一方で、全体スケジュールとの整合性を十分に考慮したテキスト構成であったか、各課の内容が適切な説明・確認を伴っていたか、さらには語彙集とテキストの対応関係における不一致など、講師側として反省すべき点も少なくなかった。とりわけ誤記については重要な改善課題である。これらの点については、今後テキストおよび語彙集をレポジトリに公開するにあたり、十分な修正・確認・補足作業を行い、より完成度の高い教材とするよう努めたい。

8.おわりに

本研修が成功を収めることができましたのは、ひとえに受講生の皆さまのご理解とご協力のおかげであり、心より感謝申し上げます。また、大阪会場としてご支援くださいました大阪大学箕面キャンパスの関係者の皆さまには、大変お世話になりました。さらに、東京外国語大学の教職員の皆さまには随時ご助力を賜りました。ここに、関係するすべての皆さまに対し、改めて深く感謝申し上げます。