Publicationsハカス語

ハカス語

研修概要

研修期間

2023年8月21日(月)~2023年9月15日(金)
午前10時00分 ~ 午後4時30分(土曜日,日曜日は休講)

研修時間

100時間

研修会場

大阪大学 箕面キャンパス
(〒562-8678 大阪府箕面市船場東3-5-10)

講師

主任講師:
高島 尚生(たかしま なおき)
2008年度東京外国語大学AA研夏季言語研修(トゥヴァ語)講師

ネイティブ講師:
Alevtina IDIMESHEVA(アレフチーナ イディメシェヴァ)

受講料

60,000円(教材費込み)

教材

1.『ハカス語文法』(高島 尚生 著)

2.『ハカス語入門』(高島 尚生 著)

文化講演

【1回目】日時:2023年9月4日(月)

【2回目】日時:2023年9月11日(月)

講演者:大澤孝(大阪大学大学院人文学研究科教授)

講師報告

1.研修の概要

○研修期間:
2023年8月21日(月)~2023年9月15日(金)
午前10時00分 ~ 午後4時30分(土曜日,日曜日は休講 )
○研修時間:
100時間
○研修会場:
大阪大学 箕面キャンパス 外国学研究講義棟(519教室)

本研修は2023年8月21日(月)から2023年9月15日(金)までの20日間,1日あたり5時間,合計100時間実施した。
会場は,大阪大学 箕面キャンパス 外国学研究講義棟(519教室)を利用した。

2.講師

○主任講師:高島 尚生(たかしま なおき)2008年度東京外国語大学AA研夏季言語研修(トゥヴァ語)講師

○ネイティブ講師:Alevtina IDIMESHEVA(アレフチーナ イディメシェヴァ)

文化講演者:大澤孝(大阪大学大学院人文学研究科教授)

3.教材

  1. 『ハカス語文法』(高島尚生 著)
  2. 『ハカス語入門』(高島尚生 著)

1.『ハカス語文法』は,ハカス語文法を品詞ごとにまとめてあり,基本的な文法が網羅されている。これまで日本にこのようにまとまった文法書がなかったという点で価値があるといえるだろう。研修では主として文法説明の補足や文法便覧的な役割を果たした。

2.『ハカス語入門』はハカス語文法の基本的な文法事項をできるだけ効率よく習得できるように,文法項目を表にまとめながら文法説明を簡潔にして,学びやすい順序で25課からなる入門書にした。巻末には「読み物」を入れてあり,研修後の学習用に役立てるようにしてある。
ネイティブ講師Idimeshevaは例文のチェックを行い,研修中にはもっと適切な例文や別の表現も提案,それらを追加することができた。加えて,彼女による新出単語や例文などの録音を実施しているので,研修後も音声を聞いて学習できるようにしてある。
ハカス語の学習用教材はこれまでに皆無であったといえるので,価値ある教材となったと考える。

4.受講生詳細

受講生は2名で,両名ともにテュルク諸語や他言語の研究者であった。受講動機はシベリア諸民族の言語間接触やテュルク諸語を含むSOV型語順の言語,テュルク諸言語の比較に関心があり,今後の自分の研究に生かしたいという方々であった。
受講生の1人が勤務大学の仕事の都合でやむなく欠席する日があった以外,両名ともに欠席もなく授業すべてに出席し,無事研修課程を修了した。

5.文化講演

【1回目】2023年9月4日(月)
【2回目】2022年9月11日(月)
講演者:大澤孝(大阪大学大学院人文学研究科教授)

 

文化講演は2回とも大阪大学大澤孝先生にして頂いた。大澤先生はハカスやトゥバ,モンゴルなどで青銅器時代や鉄器時代の古墳や岩絵の研究から突厥や古代キルギス時代の碑文研究と広範囲な研究をされていて,今回の講演では先生がハカス共和国で行った遺跡や古墳,碑文の調査について,写真を交えて話して頂いた。
現代のハカス民族の起源やハカス民族と考古学的時代に現在のハカス領内に暮らした氏族との関係性,彼らがどこからやってきたのか,などハカスの領域だけにとどまらず,中国や中央アジア,黒海に至る広い文化交流・伝播の歴史にまで話の内容は広がった。
また,歴史的価値のある石碑への落書きなど現在の保存状況やその憂慮すべき問題にも言及された。
2回の公演ともに予定時間をこえるほど興味深い話ばかりで,少ない人数ながらも質疑応答も活発に行われた。

6.授業

授業は『ハカス語入門』を使用して,高島が文法説明,格の変化や動詞の活用などの練習問題を中心として進め,ネイティブ講師Idimeshevaはほぼすべての例文やテキストを授業で読み,発音の指導をし,簡単な会話のやりとりも高島とともに行った。
受講者2名はロシア語を理解したので,ロシア文字を使用するハカス語の文字と発音に関しては,多くの時間を割く必要はなく,ハカス語固有の文字と発音の練習だけで済んだこともあり,予定よりも早く教科書25課を終えることができた。その後は『ハカス語文法』から文法項目を選んで解説したり,読み物を読んでハカス語の理解を深めた。
ネイティブ講師Idimeshevaは,ときにはハカス民族のなかの諸氏族について,文化や伝統について,ソ連時代と崩壊後の現地の生活などについて本では書かれていないような話をロシア語でしてくれることがあったが,受講生は高島が通訳しなくとも理解できたので,貴重な話を直接聞ける機会になったと考える。

7.研修の成果と課題

4週間の研修で,受講生はハカス語文法の基礎を習得できたと考える。
研修中には様々な質問が飛び交い,他のテュルク諸語との比較もあり,ネイティブ講師を含めて様々な文法項目について論議することができた。なによりも講師高島が勉強になることが多くあった。
受講生各自の今後の研究にハカス語研修が少しでも役に立てばこれほど嬉しいことはないと考えている。
研修を振り返ってみて,授業で文法習得に時間を割きすぎて会話練習があまりできなかったことを反省している。そのためにも将来の課題として,シチュエーションに応じた会話,ダイアローグ集を作成したいと思う。
研修中には教科書や文法書の間違いや修正点も見つかり,教材の加筆・修正が今後の課題となっている。また,研修に合わせて,ハカス語辞典とハカス語分類語彙集も完成させる予定であったが,研修期間に完成できず受講生の皆様にご迷惑をおかけした。研修後の学習のためにも辞書の完成に向けて作業中である。

8.おわりに

今回受講された受講生の皆様にたいへん感謝しています。研修を通じて,担当講師の知識不足を身に染みて感じました。受講生お二人のテュルク諸語と他の諸言語の知識には驚嘆するばかりで,教えていただくことばかりでした。講師自身がハカス語をもっと深く勉強しなければならない,他のテュルク諸語も広く勉強しようという大きな刺激を受けました。全研修期間を通して授業進行がスムーズにできたのも受講生のおかげです。
今回ハカス語研修を開催する機会を与えていただいたことに対し,AA研言語研修委員会の諸先生方,特に同委員会委員長を務めておられる品川大輔先生に深く感謝します。品川先生には教材録音のため東京に滞在した際には,録音室の手配や機材の準備をはじめとしてとてもお世話になりました。本当にありがとうございます。
研修実施中に何も問題が起きることなく開催することができたのは,書類作成をはじめとして様々な事務的な仕事をしていただいた共同拠点係の皆様にほかならず,この場を借りて感謝の意を伝えます。加えて,大阪会場となった大阪大学の担当者の皆様にも感謝します。