退職所員からのメッセージ:西井 凉子
2025.03.31

最後の授業の時,ゼミ生からもらったたくさんのお菓子を前に
(AA研)に助手として着任した1994年の4月から2025年3月まで,31年にわたって勤務しました。はじめの10年は西ヶ原キャンパスで,その後の20年を「新キャンパス」の府中ですごしました。私の中では,府中キャンパスはいまだ「新キャンパス」の感覚なのですが,じつは西ヶ原時代の2倍もここにいることに気づき愕然とします。年々時が経つのが加速度的に早くなっていることを実感します。
私の研究関心は,1980年代半ば以降30年以上にわたり続けてきた南タイの村落における人類学的研究をもとに展開してきました。当初は,フィールドにおいてムスリムと仏教徒が共在しているという状況から,異なる宗教をもった人々が日常生活においてどのように互いに影響し,影響されつつその生を営んでいるのかという差異と共通性に焦点をあてるものでした。やがて,その関心はフィールドワークという実践そのものにむけられるようになり,人類学者が「身体としてそこにいる」ということはいかなる意義をもつのか,そのことは研究成果として著されるエスノグラフィにどのように関わっているのかという根源的な理論的関心へとつながっていきました。
こうした研究関心の変遷は,AA研における共同研究から大きく影響をうけたものです。AA研は,フィールドワークと共同研究を柱とした研究所なので,まさに私の専門分野の文化人類学で必須とされるフィールドワークという人類学的実践を行い,その成果を共同研究として発展させて論文集などで世に問い,さらにその成果をもとにまた新たな研究活動を行うという循環的展開が可能な恵まれた環境だったと思います。また,教育においては,主に後期博士課程の授業だったので,少人数のゼミ形式で行い,基礎的なことに立ち返りつつ新たな学問的な方向性を模索するという試みを,リラックスした雰囲気で行うことができ,それは私にとっても大きな楽しみでした。(写真はその楽しかったゼミを記念するものとなりそうです。)
私が最後にAA研で主催した共同利用・共同研究課題のテーマは「死の人類学再考」ですが,そこで考えたことは,生と死は対立するものではなく,生きることは,やがては必ず死すべき身体として生きることであり,しかしそのことが,生きている世界を輝かせ,慈しませることになるということです。これから死にむかって生きるとしてもまだまだ先だと思っていても,冒頭に述べたように年と共に加速度的に時は経つことを考えると,あっという間にその時は迫ってくるかもしれせん。ですから,退職後はもっと目いっぱい色んなことに挑戦して今を生きることを楽しみたいと思います。
みなさまもお身体を大切に,お元気に今を楽しんでください。今後はAA研の外から応援してます。