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新任スタッフ紹介 Vol.77:村津 蘭

人ならざる者たちの現れを,さまざまな方法で探究する

村津 蘭
(2023年4月助教着任)

博士論文で調査したペンテコステ・カリスマ系教会の祈り

これまで私は西アフリカ・ベナンの宗教実践における経験を,文化人類学と映像・マルチモーダル人類学の枠組みで研究してきました。

このテーマに興味を持った直接のきっかけは,私がボランティアとして二年間ベナンに派遣されていた時の経験でした。そこでは同僚や友人の多くが,妖術師や悪魔,呪物といったものについて,当たり前の事柄として話題にあげていました。私にとっては途方もないように思えるこうした物事が,人々にとってはどうしようもなく現実であるということに強く興味が惹かれたのです。

アフリカにおける霊的な存在は在来信仰の中だけではなく,1980年代以降急速に成長したペンテコステ・カリスマ系教会の中でも強い存在感を放っています。こうした事象は,従来の研究では主にグローバル化やそれに伴う社会的,経済的な変動と結びつけられて理解されてきました。しかしこうした視座では,いかに霊的な存在が人々の中に現れることが可能になっているか,それによって何が起こっているかといった問いに答えることが困難です。また,霊的存在に関連する物語だけに注目してただ言説だけで生成するのではない人々の現実を見落とすことになりかねません。そうしたことから,私は霊的存在が人々を捕え,人々がそれらに捕えられる過程を,環境と身体間の相互作用の中で発生する感覚・情動に注目することで,言説が生成する前の時点から捉えることを試みてきました。また,フィールドの様々な現実のあり様を立ち上げるために,従来の学問的な記述だけではなく,映像やインスタレーション,フィクションといった様々な手法を用いながら,こうしたことがフィールドに現れる様を探究し表してきました。

現在,日本においてもフィールドにおいても,撮影・録音機器の小型化や進化,インターネットの普及などが人々の生活や思考に深く影響しています。フィールドワークを取り巻くこうした変化は,調査対象と成果発表の様式や媒体の変化だけではなく,それに伴う人類学者とフィールドの関係や,調査と執筆/成果発表を分けて行ってきた人類学的技法の変容を促すものだと考えています。こうした中で,アーティストやデザイナーとの協業など分野横断的な発想も必要になってくるでしょう。今後の研究としては,これまでの実践してきた民族誌映画の制作や,インスタレーションでの発表,フィクションを用いた現地の人々との協働だけではなく,VR映像制作やWeb制作など様々な方法と連携を念頭に置きながら新たなフィールドワークや知のあり方を構想していきたいと思っています。