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新任スタッフ紹介 Vol.97:森 昭子

徒弟として、表現者として:ガーナの工房から広がる民族誌的知

森 昭子
(2026年4月特任研究員着任)

フィールドワーカーとして最初にガーナ共和国に住んだのは、地方都市スンヤニ近郊の農村チラでした。青年海外協力隊のコミュニティオフィサーとして森林保護区周辺の村々を巡回し、アサンテの人々や北部からの移民たちと生活を共にしました。共に食事を囲み、チュイ語で言葉を交わしたあの時間が、私のフィールドの原体験です。

その後、ガーナのアーティストの友人たちのコミュニティに出入りするなかで、国際交流基金の現地コーディネートを引き受けることになります。それが、私の人生を変える「看板絵」との出会いでした。現代美術作家・小沢剛氏のプロジェクトに携わり、巨大な看板絵制作や、工房裏でのミュージックビデオ撮影、即興演奏による音楽制作の録音を間近で経験したのです。幹線道路沿いの看板工房で繰り広げられる職人的な営みと、自由で奇抜な絵と文言が放つ強烈なメッセージ。この視覚文化に魅了されたことが、アカデミックな研究へと向かう契機となりました。

長期フィールドワークを前に、当時の指導教官であった栗田博之先生(東京外国語大学名誉教授)に助言を求めたところ、「例えば弟子入りして、看板絵のあらゆる知識と技術を習得してはどうか」という言葉をいただきました。すでにガーナでの生活経験があった私は、迷わずその道を選びました。

兄弟子たちと泥臭い下働きをこなし、素材や道具を学び、技法を身体に染み込ませる日々。徒弟になる経験は、私の人類学的視野を劇的に広げました。師弟関係は擬制的な親子関係でもあり、アサンテ社会の深い倫理性や、時には不自由な制約を伴います。しかし、その不自由さこそが、私を別の地平へと導いてくれる鍵でした。現在は、人類学者として客観的な記述を行う一方で、私自身が制作した看板絵や映像を用い、多角的な民族誌的表現を試みています。

私の研究関心は、看板工房に留まりません。かつて共に過ごしたアーティストの友人たちは、今やSNSや独自のプラットフォームを駆使し、音楽を通じて現代ガーナ社会への異議申し立てを行うアクティヴィストへと変身しています。

特に、マイノリティとして差別に抗う人々や、ディアスポラのガーナ人によるクイアな表現実践に注目しています。外国人研究者である私が彼らと連帯して論文を書くことは、それ自体がエージェンシーを発し、彼らの運動の一部となっていく行為です。その重みを自覚しながら、彼らのパフォーマンスが持つ動的な力を、言葉と絵の両面から記述していきたいと考えています。