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新任スタッフ紹介 Vol.89:賀川 恵理香

パルダって何?から始まった私の研究

賀川 恵理香
(2026年4月JSPS特別研究員着任)

 これまで私は、現代パキスタン社会に生きる女性たちの「パルダ」をめぐる経験を、地域研究の視座から研究してきました。パルダとは、先行研究によると、インド、パキスタン、バングラデシュを中心とした南アジア地域に広く存在する女性隔離の規範であり、男女が居住空間を分離すること、あるいは女性が衣類を用いて象徴的な隔離空間を作り出すことによって実践されます。

私は、学部4年次にパキスタンに1年間留学した時の経験からこのテーマに興味を持ちました。大阪大学外国語学部にてウルドゥー語を専攻していた私は、松下幸之助記念志財団の助成を受けて、パキスタン・パンジャーブ州の地方都市ムルターンにあるバハーウッディーン・ザカリヤー大学ウルドゥー文学研究科に留学しました。

留学中、大学の女子寮に滞在していた私は、女子学生が行き先に応じて装いの方法を大きく変えていることに気づきました。例えば、大学の授業を受けに行くときにはアバーヤと呼ばれる全身を覆う緩やかなコートを羽織って、ヘッド・スカーフ(ヒジャーブ)と顔覆い(ナカーブまたはニカブ)を着用するのに対し、女性の友人同士で学外のカフェに出かけるときにはアバーヤを脱いで、シャルワール・カミーズ(長袖シャツと長ズボンの2点から成る民族衣装のこと、女性はさらに大判ストールをまとう)に着替えて、頭髪を覆わずに外出するといった事例です。このような装いの方法は、象徴的な隔離空間を作り出す、という女性隔離の原則からすれば規範からの逸脱ともとれます。それにもかかわらず、彼女たちの多くが「パルダを実践している」と述べていたことに私はとても驚かされました。

実際に、女性たちと生活を共にするなかで、彼女たちが場や状況に応じて臨機応変に身体の覆い方を変えたり、衣服自体を着替えたりしている様子を幾度となく目にしました。こうした経験をもとに、パキスタン社会におけるパルダをめぐる状況を総体的に理解するためには、女性たちの日常的な経験を含めてパルダを分析する必要があると感じました。そのうえで、私は様々な文脈に置かれた女性たちが、どのようにパルダを解釈し、実践しているのかに興味を持ち、パンジャーブ州を中心に都市部および農村部における聞き取り調査や参与観察を行ってきました。博士課程まではムスリムのみを対象としてきましたが、現在はクリスチャンやスィク、ヒンドゥーなど、多様な信仰を持つ人々も含めて、パルダを重要な価値として生きる女性たちの日常的な経験や、それに根差した生のあり方を記述することを目指しています。