新任スタッフ紹介 Vol.90:近藤 加奈子
2026.04.13
始まりは「美味しくない水」
近藤 加奈子
(2026年4月JSPS特別研究員着任)

私がモザンビークの農村を対象に、「水」について研究するようになったのは、青年海外協力隊でのある出来事がきっかけでした。私は2016年から2018年にかけて、青年海外協力隊としてモザンビークの農村部で「安全な飲料水」の普及活動に従事していました。具体的には、国際協力機構(JICA)の支援によって手押しポンプを設置し、それを住民自ら維持管理できるよう各村を巡回しながらワークショップの実施や技術指導を行なっていました。
しかし、活動中は、設置された手押しポンプが適切に管理されず、放棄される事例をいくつも目の当たりにしました。私はそうした手押しポンプを目にするたびに、「せっかく清潔な水を得られるのに、なぜ大切にできないのか」と苛立っていました。そんなある日、手押しポンプが利用されずに放置されていた理由を尋ねたところ、住民の一人が「この水は美味しくないんだ」と答えました。住民によれば、手押しポンプの水では主食であるシマ(トウモロコシ粉の固練り粥)を上手に作れないと言うのです。原因は、水の硬度が高いことでした。日本においても、「硬水では米が美味しく炊けない」と言われるように、水にも現地の生活に適したものとそうでないものがあったわけです。
それまで私は、「清潔な水は喜ばれるはずだ」と考え、味や使いやすさなど、住民の水に対する認識を十分に理解しないまま、「安全さ」という価値観を一方的に押し付けていたことに気づかされました。この出来事を通じて、私は現地の水に対する価値観や利用実態について深く知りたいと思い、帰国後に京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科へ進学しました。
大学院では、電気もない村に数か月間ホームステイしながら、現地の水源や水利用の実態について調査してきました。調べれば調べるほど、現地の人びとが持つ水への豊かな感性、水環境の変化に対する対応力に驚かされることばかりでした。
アフリカ農村部の水をめぐる語りは、劣悪な衛生環境や水汲み労働の大変さが強調されがちです。それらは事実である一方、援助側の視点に立った語りが多く、限られた環境のなかでも知恵や工夫を駆使しながら問題に対処してきた、住民側の視点は見落とされがちです。私はそうした住民の実践に光を当てたいと考えています。
水は誰にとっても欠かせない資源ですが、その用途や価値は地域の文化や慣習と深く結びついており、画一的な給水支援では、現地のニーズに応えることは困難です。そのため、私の研究を通して明らかになった現地の視点や実践を取り入れることで、より効果的な給水支援や水源管理のあり方を模索しています。