Publicationsトラパネク語

トラパネク語

研修概要

研修期間

2024年8月19日(月)~2024年9月6日(金)
午前10時00分~午後4時30分(土曜日,日曜日は休講)

研修時間

73時間(当初75時間を予定も台風接近の為2時間休講)

研修会場

東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
(〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1)

講師

主任講師:
内原 洋人(うちはら ひろと)東京外国語大学総合国際学研究院准教授

ネイティブ講師:
Gregorio Tiburcio Cano(グレゴリオ・ティブルシオ・カノ)メキシコ・ゲレロ州教育庁教師

受講料

45,000円(教材費込み)

教材

1. 『トラパネク語ウェウェテペク方言文法教本』(内原洋人、グレゴリオ・ティブルシオ・カノ 著)

文化講演

【1回目】日時:2024年8月22日(木)
講演者:郷澤 圭介(拓殖大学准教授)

【2回目】日時:2024年9月4日(水)
講演者:佐々木 充文(東京工業大学非常勤講師)

講師報告

1.研修の概要

○研修期間:
2024年8月19日(月)~2024年9月6日(金)
午前10時00分~午後4時30分(土曜日,日曜日は休講)
○研修時間:
75時間
○研修会場:
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所

本研修は2024年8月19日(月)から2024年9月6日(金)までの15日間、1日あたり5時間、台風接近の為2時間休講 合計73時間実施した。
会場は、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(306室)を利用した。

2.講師

○主任講師:内原 洋人(うちはら ひろと)東京外国語大学総合国際学研究院准教授

○講師:Gregorio Tiburcio Cano(グレゴリオ・ティブルシオ・カノ)メキシコ・ゲレロ州教育庁教師

文化講演者:郷澤 圭介(拓殖大学准教授)、佐々木 充文(東京工業大学非常勤講師)

3.教材

『トラパネク語ウェウェテペク方言文法教本』(内原洋人、グレゴリオ・ティブルシオ・カノ 著)

トラパネク語の文法書は Suárez (1983) がほぼ唯一のものであり、教材もほぼ皆無であった。本教本は、トラパネク語ウェウェテペク方言についての包括的な記述文法としては初めて出版されるものである。文法書として、音韻論、形態論、統語論、意味論の各分野についてできるだけ満遍なく網羅するように心がけた。また、教育用教材として様々な練習問題、民話及び会話集を含めたものとなっている。

4.受講生詳細

受講生は5名、教務補佐1名(スペイン語通訳などを担当)の構成であった。うち本学学部生2名、本学大学院生1名、外部受講者2名であった。最後には全員が優秀な成績で終了した。
受講生の殆どは言語学専門の学生たちであり、語学研修としては初めてアメリカ先住民語の授業が開講されるということで、言語の多様性に触れるために履修した者が多かった。トラパネク語の文法は稀に見る複雑さを呈するが、皆真面目に受講し練習問題や会話練習にも熱心に取り組んでいた。

5.文化講演

【1回目】2024年8月22日(木)13:00-14:40
講演者:郷澤 圭介(拓殖大学准教授)

「メソアメリカを理解しマヤ語を使ってみよう」
メソアメリカ文明、特にユカタン半島におけるマヤ文明がご専門である講師にメソアメリカ文明全般について、またユカテク・マヤ語の初歩について語って頂いた。講演はオンラインでも公開され、15名ほどが視聴した。

【2回目】2024年9月4日(水)13:00-14:40
講演者:佐々木 充文(東京工業大学非常勤講師)

「描かれる言葉 読まれる絵 ナワトル語でめぐるメキシコ地名」
ナワトル語言語学がご専門である講師に、メキシコの絵文書において用いられたアステカ絵文字について、またメキシコの地名を通してナワトル語の基礎についてお話しいただいた。講演はオンラインでも公開され、18名ほどが視聴した。

6.授業

主に文法事項の解説を内原が、発音や会話の練習などをティブルシオ講師が担当した。まずは研修のはじめに分節音や声調を含めた音韻の解説を行い、ディクテーション問題を通してトラパネク語を聞いて表記できるように練習を行った。その後は文法解説と例文の説明を行い、適宜名詞や動詞の活用練習や付録の民話を用いた練習を行った。
文法事項としては基本語順などトラパネク語の文法構造の概観、会話に頻出する小辞の機能、名詞と形容詞の用法と活用、動詞の活用(動詞クラス、人称標示及びTAM標示)、態や動詞派生、有生性といった形態統語論、親族名称や身体部位などの語彙意味論、破壊動詞や複数回性動詞、姿勢動詞などと言った動詞意味論までをカバーした。
また、授業中は文法事項の解説や練習問題への取り組みに加え、図や絵を用いた親族名称や身体部位名称のエリシテーション、身体部位名称の空間表現への援用の有無の調査、ビデオクリップによる破壊動詞のエリシテーション等も行った。
毎日第三限にはティブルシオ講師主導で会話練習を行って一限・二限に学んだ文法事項の定着を図った。また、研修最終日には受講者がペアを組んで各自トラパネク語の会話を作文し発表を行った。発表は録画をし、教務補佐である中本氏に字幕を付けていただいた。

7.研修の成果と課題

教科書として用いた文法教本は25課まで用意してあったが、そのほぼ全てをカバーすることができた。成果としては、これから言語研究を志す受講生にとって、これまで学習したどのような言語とも文法構造が大きく異なるトラパネク語に触れる機会を提供できたことが挙げられるだろう。また、受講者らとのディスカッションを通し、分析の再検討や教材の修正・改善を行うことができた。この研修で用いられた教材や音声資料は研修後に出版予定である。
授業中には語彙集があると望ましいとの声があったが、教材準備時点では語彙集まで手が回らなかった。研修後に語彙集は出版予定である。また、言語学的・語学的な内容のみならず、文化的な内容ももう少しカバーしてほしいとの要望もあったが、三週間の授業では限界があり、また文化に関しては講師陣の専門ではないので、文化講演で一部触れた程度であった。
トラパネク語の言語学的研究はまだ発展途上であり、授業中にも未解明の問題が多く浮き彫りとなった。今後はこれらの問題も含めて研究に取り組んでいきたい。

8.おわりに

受講者全員が最後まで積極的に取り組み,無事に三週間研修を終了することができた。まずは受講者の方々に感謝致します。ネイティブ講師としてメキシコより来日してくださったGregorio Tiburcio Cano先生、また主にスペイン語通訳を担当して頂いた教務補佐の中本舜さんに深い感謝を表します。また、文化講演をご快諾して頂いた郷澤先生と佐々木先生にも御礼申し上げます。最後に,研修の準備や事務的な手続きにおいて大いにお世話になったAA研の皆様、特に品川大輔先生と共同利用拠点係の皆様に御礼申し上げます。