石原遼平「里耶秦簡9-2298+9-1781簡と8-1861簡の綴合に関する覚書」

里耶秦簡9-2298+9-1781簡と8-1861簡の綴合に関する覚書

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石原遼平(AA研共同研究員、明治大学研究員)

綴合後の図版
里耶秦簡9-2298と9-1781は綴合が可能であることが『里耶秦簡牘校釈(二)』[1](以下『校釈2』)によって既に指摘されている。私見では、この2簡には、さらに8-1861が綴合可能である。これら3簡はいずれも労役を記録した「作徒簿」である。

1. 現行釈文
・9-2298+9-1781は『校釈2』で次のように釈読されている。

〼己丑、將田鄕守敬作徒薄 其一人病 其一〼
…… 毄城旦一人上稟 小〼
〼人上稟 舂二人:
〼蓐芋 其一人上稟、 (9-2298+9-1781)

・8-1861は『校釈1』[2]では次のように釈読されている。

〼【徒】養。〼
〼妾一人、蓐芋。〼 (8-1861)

2. 綴合後図版
綴合後の形状は〔図①〕のようになる。9-2298+9-1781と8-1861は断面の形状は異なるものの、簡の幅、木目の特徴、文字の位置などから綴合が可能であることがわかる。
3. 綴合後釈文
綴合後の釈文は以下のようになる。

〼己丑、將田鄕守敬作徒薄。 其一人病。 其一〼 〼徒養。
〼 毄城旦一人上稟。 小妾一人蓐芋。
〼人上稟。 舂二人。
〼蓐芋。 其一人上稟。(9-2298+9-1781+8-1861)

二行目三段目のちょうど割れ目に位置する「小」と「妾」間の文字は秦漢簡牘に常見される「小隷妾」という用例および右上にわずかに残った残画から「隷」字であると考えてほぼ間違いない。
綴合の結果、文脈から以下のように文字を補って読み下すことができる。

【某年某月某某朔】己丑、将田郷守の敬が作徒薄。【某身分、若干人。その若干】人は稟を上す。【その若干人】は芋を蓐す。その一人は病む。毄城旦一人は稟を上す。舂二人。その一人は稟を上す。その一【人】は徒養。小隷妾一人は芋を蓐す。(9-2298+9-1781+8-1861)

復元後の内容は十分に連続性を持っているため、記載内容から見ても綴合の蓋然性が高まると言える。例えば、作徒簿において個別の労役は一般的に成年男子→成年女子→未成年男子→未成年女子の順で記されるが[3]、この簡でも成年男子の毄城旦、成年女子の舂に続いて未成年女子の小隸妾が記されていることが確認できる。また小隷妾の従事している蓐芋という作業は9-2298+9-1781にも見えており、將田鄕守の主管する作業として不自然が無い。

 

【附記】
附記:小文は、アジア・アフリカ言語文化硏究所共同利用・共同硏究課題「秦代地方県庁の日常に肉薄する――中国古代簡牘の横断領域的研究(4)」における議論を踏まえているほか、科学硏究費(基盤硏究B、課題番号16H03487)「最新史料の見る秦・漢法制の変革と帝制中国の成立」の硏究成果を含む。

編集者注記:2020年5月29日入稿

[1]陳偉主編,何有祖、魯家亮、凡国棟撰『里耶秦簡牘校釈(第二巻)』武漢大学出版社、2018年。
[2]陳偉主編,何有祖、魯家亮、凡国棟撰『里耶秦簡牘校釈(第一巻)』武漢大学出版社、2012年。
[3]9-2289簡などを参照。