1. 期間・時間と場所 詳細
研修期間は,2012年8月13日(月)から2012年9月14日(金)まで,土曜日・日曜日,及び8月15日~17日は休講。時間は午前9時00分から午後4時40分まで,但し8月31日,9月7日は午前9時00分から午後3時30分までで合計130時間であった。会場は,大阪大学中之島センター4階講義室(404号室)であった。
2. 講師 詳細
講師は,清水政明(大阪大学准教授),冨田健次(大阪大学教授),ネイティブ講師としてNghiêm Hồng Vân(ハノイ大学講師),Nguyễn Thị Ái Tiên(大阪大学大学院生)がそれぞれ,94時間,36時間,77時間,53時間を担当した。文化講演として8月13日に遠藤聡(大阪大学非常勤講師),8月31日に岡田友和(大阪大学特別研究員),9月7日に坂川直也(京都大学大学院生)がそれぞれ4時間,3時間,3時間を担当した。
3. 受講生 詳細
受講生は7名(大学院生1名,社会人6名)で,ベトナム長期滞在経験者2名,ベトナム語通訳者1名,ベトナム少数民族言語研究者1名,ベトナム関連団体主催者2名他であった。
4. 文化講義 詳細
文化講義では,まず研修のはじめに遠藤聡氏(大阪大学非常勤講師)に研修で取り上げる映画の背景となるベトナム現代史の基本を解説してもらった。研修中盤には岡田友和氏(大阪大学特別研究員)に映画の舞台となるハノイの当時の歴史について主にフランス史料に基づいて解説してもらった。研修終盤には取り上げた映画の監督であるĐăng Nhật Minh氏の映画論を研究する坂川直也氏(京都大学大学院生)に,ベトナム映画の概史及びその中での同監督の位置付け,並びに取り上げた映画のベトナム映画史における位置付けについて解説してもらった。今回映画という特定のコンテンツを教材としたので,それに纏わる歴史的背景を最初に解説したことは効果が大きかった。また,映画の内容を具に見た後に,映画論の中での当該映画の位置付けを専門家から聞けたことも受講生にとって大きな収穫であった。
5. 講義内容 詳細
講義の内容は清水が映画『10月になれば(Bao giờ cho đến tháng mười)』,『46年冬,ハノイ(Hà Nội Mùa đông 46)』のDVD,冨田が『日本語基本動詞用法辞典』(小泉保他編,大修館書店)をベトナム語に翻訳したものを利用した。まず前者については,それぞれの映画をシーン毎に36,46課に分け,個々のシーンに出現する自然会話を聞き取ると同時に,様々な口語表現を理解することを主なタスクとした。後者に関しては,辞典に出現する文の中でも特に受身文に重点を置いて,受講者による読みあげ,講師による意味と文法の解説が行われた。
映画を教材として利用する上では版権の問題を解決する必要があるが,映像に関してはDVDを受講者分購入し配布する形で回避した。台詞に関しては,監督Đặng Nhật Minh氏の全面的な協力のお陰で自由に編集し教材化することが許された。そこで,冒頭の約2日を利用してリスニングを行う上で留意するべき基本事項,各台詞を文法事項毎に整理し映画の台詞に基づいて口語文法を解説した「発音・文法解説」編に基づきその概略を解説した。その後,「映画シナリオ」編に基づき,各シーンの映像を見て,基本的に一文ずつ聞き取ったものを受講者がホワイトボード上に書き取り,他の受講者も含めてその是非を議論しつつ正解を導き出し,意味を解釈する。講師が必要に応じて解釈を修正した後,個々の文が「文法解説」に示したどの文法事項に関連するかを講師が解説するという形で授業を進めた。ネイティブ講師は,(1)リスニングの段で受講者全員がどうしても聞き取れない部分について,スピードを落として発話,(2)口語独自の表現が出現する度に例文を作成して解説,(3)映画各シーンに関連する文化的な問題について解説を行った。
受講者のリスニング力には,当初はベトナム長期滞在経験者とそうでない場合とで大きく差があったが,研修終盤にはその差がかなり縮まったことを全員が実感していた。口語表現の解釈に関しては,例えば書き言葉に頻出する「受身文」がほとんど出現しない等の特徴があると同時に,「動詞連続」の表現等初級教科書ではあまりお目にかからない複雑な表現が極めて高い頻度で出現する。また,「文末助詞」の微妙なニュアンスの差異についても日本語に訳し分けることは困難を極める場合があるが,それらに対し受講者7名全員がかなりの程度まで理解できるようになり,当初想像していた以上の進歩が見られた。
いずれの研修内容に関しても,それらを実施する上で受講者の高い積極性に支えられた部分が大きかったことは特に指摘したい。中にはご家族を介護しながら睡眠時間を削りつつ1カ月間予習に明け暮れたという受講者もおられ,講師陣の解説にも力が入った。また,映画の台詞や内容に関してネイティブ講師も含めてどうしても解釈に苦しむ部分が数か所あったが,研修終了後清水のベトナム渡航に際し直接監督に確認することが叶った。また,その際,受講者が監督に向けて綴ったメッセージを清水が直接監督に手渡すこともできた。
(清水政明)
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