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  • 2001(平成13)年度
  • 2001(平成13)年度 海外派遣報告(大韓民国)

    大韓民国における学術研究体制の動向
               [報告者]本田 洋(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)


    1. はじめに

     2001年11月30日より2002年1月7日にかけ、報告者は大韓民国(以下、韓国と略記)を訪れ、平成13年度科学研究費基盤研究(A)「海外学術調査・フィールドワークの手法に関する総合調査研究」の一環である海外学術調査体制とフィールドワークの手法に関する調査を試みた。本稿は、その成果のうち、総括班業務と関わりの深い海外学術調査体制について整理したものである。

     人文社会系に限れば、韓国は、東アジアの他地域と比較して、日本国籍を持つ研究者にとって現地での調査研究が遂行しやすい地域であるといえよう。よって、本稿では、学術目的での現地滞在に伴う諸手続きについては最小限の記述に留め、現地調査関連の情報源を報告者の知見の範囲で提供するとともに、これまであまり紹介されることのなかった同国の学術研究体制全般について、若干の情報を提供したい。

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    2. 学術目的での現地滞在に伴う諸手続きと留意事項

     韓国の政治情勢と安全情報については、日本国外務省ホームページの「各国・地域情勢」を、入国査証については、駐日韓国大使館ホームページの「領事部のご案内」、ならびに「各種お問い合わせ先」等を参照されたい。

    ・外務省ホームページ:http://www.mofa.go.jp/mofaj/index.html

    ・駐日大韓民国大使館ホームページ:http://www.mofat.go.kr/japan

     若干の補足説明を加えれば、韓国の政治情勢は過去10年、極めて安定しており、2002年3月末現在、海外危険情報と邦人の渡航制限は発出されていない。日本との査証免除取り決めは締結されていないが、韓国側の一方的措置により、1999年4月以来、観光・通過等を目的とする邦人に対しては、30日間の無査証入国が認められている。滞在期間が30日を超える場合、または30日以内であっても観光以外の目的である場合は査証が必要で、日本にある韓国大使館または総領事館で査証を取得する必要がある(以上、外務省ホームページによる)。ただし、あくまでも報告者の経験にのっとっての話であるが、後述するような現地法規に抵触するおそれのある行為を行う予定のない限りは、特に人文社会系の調査研究の場合、調査許可に相当するものを求められることはないであろう。

     30日以上の滞在でも、現地で報酬を得ない(非営利目的の)学術研究目的での90日以内の滞在であれば、特に問題のない限り、駐日大使館・領事館の裁量で入国査証を交付しているようである。報告者が今回韓国を訪れるにあたって入国査証を取得した際には、下記の書類を整えて駐日韓国大使館領事部に申請したところ、翌日に60日間滞在(交付後半年以内の入国であれば有効、再入国はできず)の入国査証が交付された。参考に資するために、報告者が提出した事由書、招請状、照会状の様式を資料として添付しておくが、以下の書類がすべて必要か、あるいは以下の書類をすべて整えれば査証が給付されるかは保証の限りではない。査証申請については、韓国大使館・領事館にお問い合わせのうえ、その指示に従われたい。

    • 申請書(用紙は申請の際、領事部で受け取り、その場で記入)
    • カラー写真1枚
    • 事由書(滞在期間、目的、渡航・滞在費用の出処等について説明した書類。申請者本人が作成) →資料資料1(韓国語原文)(日本語訳
    • 招請状(現地でのホストからのもの)→資料2(韓国語原文)(日本語訳
    • 照会状(科研研究代表者名義のもの)→資料3(日本語原文
    • 在職証明書(所属機関発行のもの)

     入国にあたり、持ち込み品は比較的簡単な検査で通関を許可されるが、楽器、業務用機器、宝石、貴金属等、その場での鑑定が難しいものについては、税関申告書の提出等の手続きが必要である。ビデオカメラ、その他高価な装身具等で携帯品と認められたものは、旅券に記入のうえ免税で持ち込みが許可されるが、出国時に現物を携帯していない場合は、贈与または売却したものと見なされ課税される。反国家的思想・性風俗上問題となる書物・ビデオテープ等の持ち込みは禁止されている。銃砲、刀剣、麻薬類も厳禁である(外務省ホームページによる)。よって、高価な、あるいは特殊な調査機材等の持ち込みについては、渡航前に現地でのホスト、カウンターパート等を通じて、韓国税関に確認することをお勧めする。

     1万米ドル相当以上の外貨(トラベラーズ・チェックを含む)を持ち込む場合は、入国時に税関申告し、出国時に確認を受けなければならず、また、入国時に申告した金額以上の外貨を所持していた場合は、外国為替管理法違反で処罰される。この場合、過失であっても罰金を徴収され、場合によっては出国禁止となる(外務省ホームページによる)。


     出国に際しては、一定の文化財等の持ち出しは禁止されており、また文化財に準ずる古美術品、骨董品、史的遺物および重要民俗資料等についても、基本的に高額なもので50年以上前のものはあらかじめ文化財管理局の許可(非文化財確認書を受領)を受けなければ、国外に持ち出すことはできない。違反に対しては懲役刑を含む重い罰則が適用される(外務省ホームページによる)。その他の学術研究目的で収集・採集した資料・標本の国外持ち出しについても、関連法規に抵触する可能性があるので、現地でのホスト、カウンターパートを通じて関係部署に確認されることをお勧めする。非文化財確認については、国際空港・埠頭等に置かれている文化財鑑定官室(文化観光部文化財庁所轄)に問い合わされたい。

    • 仁川国際空港文化財鑑定官室 電話032-740-2921〜2
    • 金海国際空港文化財鑑定官室 電話051-973-1972
    • 清州国際空港文化財鑑定官室 電話043-213-3763
    • 済州空港文化財鑑定官室 電話064-742-4276
    • 仁川国際埠頭文化財鑑定官室 電話032-891-2938
    • 釜山フェリー埠頭文化財鑑定官室 電話051-441-7265

     立ち入り制限については、北朝鮮との軍事境界線(DMZ)付近を除き、一般的に旅行制限区域はないが、軍用施設および区域、その他国家保安のため特に定められた区域には、許可なく立ち入ることはできない。写真撮影の制限については、軍事施設、大統領官邸(青瓦台)、その他警備兵が警戒する重要施設、高所からの広範囲にわたる景色、空港、港湾施設、駅・地下街など重要施設の全景、その他撮影禁止表示のある区域や建造物について禁止されている。または、韓国側が外国人に見せたくないと考えている場所や物等の撮影は、住民等の間に無用の摩擦をおこすことがある(以上、外務省ホームページ)。以前に比べれば、外国人に対する警戒心は弱くなっているが、外国人があまり訪れない場所で、カメラや地図等を携行して住民の不審をまねきかねない行動をした場合、特に日本人については「間諜」(スパイ)と間違われて当局に通報されることも大いにあり得るので(そのための専用の電話番号があり、間諜と認められた場合、通報者に高額の褒賞金が支払われる)、単独、あるいは日本人のみでのフィールド調査にあたっては慎重を期されたい。

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    3. 現地調査関連の情報源

    1)調査地に関する情報収集の方法に関して

    韓国の行政区域は、1特別市、6広域市、9道に分かれており、ソウル特別市、釜山広域市、ならびに京畿道以外の8道には、それぞれ1つ以上の国立総合大学(「大学校」)が設置されている(ただし、所在は、旧道より分離された広域市に置かれていることもある)。調査地の情報については、近隣の国立総合大学の関連学科・研究所等に問い合わせることもできよう(ただし、必要とする情報を提供してくれるかどうかは保証の限りではない)。主たる国立総合大学の名称と連絡先は下記のホームページをそれぞれ参照されたい。


     また、特別・広域市の下の区、ならびに道の下の市郡が、1990年代以降の段階的な地方自治制の導入にともない、地方行政・地域開発の主体としての機能を高め、従来の統計年報に加えて、行政白書、議会議事録・議政白書、ならびに各種調査報告書等を刊行する例も増えている。当該区・市・郡庁の広報・文化観光関連部署に問い合わせれば、公開が制限されているものを除き、入手、あるいは閲覧が可能であろう。さらに、日本の公民館に相当する文化院と呼ばれる機関が区・市・郡毎に設置されており、地域の細かな情報を提供してくれることもある。例えば、報告者が今回訪れた全羅北道南原市の南原文化院では、郷土史や文化財、民俗関係の資料を収集・整理し、刊行するとともに、地域についての各種問い合わせに応じており、近年ではホームページを通じての情報提供・交換も行っている。

    ・南原文化院ホームページ:http://www.namwonculture.org/(韓国語)


    地方文化院の連絡先については、当該区・市・郡庁、あるいは全国文化院連合会にお問い合わせいただきい。

    ・全国文化院連合会:http://www.kccf.or.kr/NEW_HOME/intro/intro01.htm(韓国語)


    2)図書館、アーカイヴ、データベース

     一般書、学術書ともに、韓国での出版件数は近年、厖大な数にのぼり、専門分野の学術書に限っても、日本の研究・教育機関でそれを網羅的に収集することはほぼ不可能な状況となりつつある。よって、韓国で出版された図書の調査にあたっては、同国内の図書館を利用することが不可欠となる。解放・独立後の図書については、国立中央図書館、国立国会図書館、ソウル大学校中央図書館等の蔵書が充実している。国立中央図書館には旧朝鮮総督府の蔵書も、ソウル大学校中央図書館には旧京城帝国大学の蔵書も収められており、植民地期の自然科学系、ならびに人文社会系の各種研究書・報告書を調査するのにも適している(以上の図書館の連絡先は下記学術情報ホームページ参照)。また、国内諸大学院に提出された修士(韓国では碩士という)・博士学位論文も比較的容易に閲覧・複写することが可能である。国立中央図書館では、近年、学位論文のみを所蔵する別館を新設して、閲覧・複写のサービスを提供している(ただし、収蔵論文は必ずしもすべてを網羅するものではない)。ソウル大学校中央図書館の場合は、同大学校に提出されたかなりの数の学位論文が、インターネットを通じてダウンロードできるようになっている。

     公文書館・アーカイヴとしては、まず、植民地期以降の政府関係文書を主として所蔵する政府記録保存所があげられる。本所は数年前に大田広域市に移転したが、ソウル光化門近くにある資料室でも目録・資料を閲覧できる。連絡先は以下の通りである。

    • 政府記録保存所大田保存所資料・閲覧室 電話042-481-6273/6152
    • 政府記録保存所ソウル資料室 電話02-720-2637

     植民地期以前、特に朝鮮王朝関連の文書については、ソウル大学校奎章閣、韓国精神文化研究院蔵書閣、国史編纂委員会等が、それぞれ王朝の文書庫を引き継いだアーカイヴを運営している。連絡先は、下記学術情報ホームページを参照されたい。


     インターネットを通じての学術情報検索については、朝鮮史研究会による「朝鮮史研究のためのインターネット利用手引き」、ならびに水野直樹氏(京都大学人文科学研究所)作成の「朝鮮近代史研究のページ」を参照されたい(いずれも日本語)。いずれも歴史学分野が中心であるが、韓国内外の各種図書館・アーカイヴ、データベースの内容と利用方法についての丁寧な解説がついており、他分野の研究者にとっても利用価値が高い。韓国では近年IT分野の普及・整備がめざましく、学術関係の図書・論文・資料検索システムや各種データベースについても、各種研究機関・学会・関連団体により様々なものが作成・公開されており、利用の仕方によっては、日本からでもかなりの学術情報を収集することができる。

    ・朝鮮史研究のためのインターネット利用手引き(朝鮮史研究会):
     http://www.shc.usp.ac.jp/kawa/link/

    ・朝鮮近代史研究のページ(水野直樹):http://www.zinbun.kyoto-u.ac.jp/~mizna/link


    3)地図・地形図

     国立地理院により、五万分の一、二万五千分の一、ならびに五千分の一地形図が、ほぼ全国にわたって作成され、政府代行販売業者を通じて販売されている。特に五千分の一地形図は、全斗煥政権期に国家的な大事業として作成が始められたもので、小地名や路地、ならびに各種建物の立地等の詳細な情報を得ることもできる(ただし、航空写真の撮影、ならびに現地調査と刊行の間に、時期的にかなりのずれが見られる場合もあり、研究目的で使用する場合には、現地での確認が必須となる)。ソウルの中央地図文化社では全国の地形図を販売している。また、各市郡の代行販売業者では、原則として、行政区域内の地形図のみを販売している。中央地図文化社で販売している各種地形図・地図の一覧と、主なものの価格を別表としてあげておく。→ 資料4

    • 中央地図文化社(政府代行地図販売)
    • 住所:ソウル特別市鍾路区孔平洞125-1
       (鍾閣交差点の近くにあり、第一銀行本店から地下鉄安国駅方向に北上し、一つ目の交差点を左に曲がった道沿い)
    • 電話:02(730)9191〜4

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    4. 韓国の学術研究体制

     解放(1945年)・政府樹立(1948年)後の韓国における学術研究の発達はめざましく、今日では世界的にも一二を争う大学・大学院進学率を誇り、アジアで有数の学術研究拠点を成しているといえるのではないかと思う。欧米や日本の学界との交流も活発で、分野によっては専任研究者の8〜9割が米国で博士学位を取得している。

     近年では、1997年の金融危機を契機として、政府による学術研究に対する支援が縮減され、大学教員の給与も相当削減されたそうであるが、 21世紀に向けての高等人力の開発を目的として政府教育部(当時。現在は、教育人的資源部)により1999年に始められた頭脳韓国21(Brain Korea 21)事業等を契機として、学術研究に対する支援も再び活発化しつつあるようである。

     以下、ソウル大学校と韓国学術振興財団での資料収集とインタビューをもとに、韓国の学術研究体制について、若干の情報を提供したい。


    1)学術研究への支援

     学術研究費のスポンサーとしては、学術振興財団(教育人的資源部)や韓国科学財団といった政府系の財団、政府機関、各種民間財団があり、その他、各種企業・機関から依頼を受け、契約関係に基づき、研究費(用役研究費)の支給を受けて行う委託研究も盛んである。国立ソウル大学校を例にとって、種別毎の研究費受託件数と支給額を示せば次の通りである(出典:『ソウル大学校統計年報2001年版』、ソウル大学校、2001年。なお、交換レートは、2002年3月末時点で1ウォン=約0.1円)。


    1998年
    合計:2,933件、102,031,988千ウォン。うち、学術研究費は1,223件、61,997,998千ウォン、用役研究費は1,710件、40,033,990千ウォン。
    学術研究費の内訳:
    学術振興財団から、388件、12,605,300千ウォン
    韓国科学財団から、300件、15,737,700千ウォン
    政府機関から、353件、31,538,803千ウォン
    各種財団から、182件、2,116,195千ウォン


    1999年(専任教員数:1,484名)
    合計:2,763件、128,449,010千ウォン。うち、学術研究費は1,220件、89,776,796千ウォン、用役研究費は1,543件、38,672,214千ウォン。
    学術研究費の内訳:
    学術振興財団から、392件、28,961,450千ウォン
    韓国科学財団から、300件、20,964,646千ウォン
    政府機関から、394件、35,544,108千ウォン
    各種財団から、134件、4,306,592千ウォン


    2000年(専任教員数:1,483名)
    合計:3,112件、109,089,913千ウォン。うち、学術研究費は1,466件、62,452,340千ウォン、用役研究費は1,646件、46,637,574千ウォン。
    学術研究費の内訳:
    学術振興財団から、311件、12,483,509千ウォン
    韓国科学財団から、412件、15,479,584千ウォン
    政府機関から、525件、30,646,631千ウォン
    各種財団から、218件、3,842,615千ウォン
    (但し、2000年度は、Brain Korea 21事業費が人力養成事業費として研究費から除かれているため、実質的には増加している)


    研究費支給額の年度別構成比(単位:%)

    学術研究費(政府系/民間)用役研究費
    199860.8 (58.7 / 2.1)39.2
    199969.9 (66.5 / 3.4)30.1
    200057.2 (53.7 / 3.5)42.8

    専任教員一人当たりの研究費支給額(単位:千ウォン)

    199986,556
    200073,560

    (参考)東京大学専任教員一人当たりの各種研究費支給額*
    (1999年度。単位:百万円)

    科学研究費**民間等との共同研究+受託研究費
    4.7162.792

    *専任教員数は教諭・養護教諭を除く4,079名として、報告者が平均値を算出。
    **特別研究員奨励費を除く
    (東京大学ホームページより)


     ソウル大学校に限れば、学術研究費に占める民間財団からの研究費の比率が極めて低く、大半が政府系の財団・機関からの援助であることが分かる。また、研究費支給総額から見れば、委託研究による研究費の支給がかなりの比率を占めている。

     専任教官一人当たりの研究費支給額は、日本円に換算すれば700〜900万円程度で、参考にあげた東京大学と比較しても遜色なく、むしろ物価の違いを考えれば、ソウル大学校の方が実質的には多いと見ることも可能である。

     大学別に見ると、工科大学152,498千ウォン、薬学大学127,431千ウォン、農業生命科学大学110,286千ウォン、自然科学大学98,398千ウォン、獣医科大学82,775千ウォンと、理工系が上位を占めている。上位二大学については、学術研究費よりも用役研究費の方が多くなっている。一方、人文社会系では、人文大学18,809千ウォン、社会科学大学25,562千ウォン、経営大学21,539千ウォン、美術大学31,736千ウォン、法科大学2,714千ウォン、師範大学16,362千ウォン等となっている。


    2)韓国学術振興財団の活動

     次に、自然科学系、人文・社会系等の分野を問わず、学術研究費支給において高い比率を占め、学術研究への支援において大きな役割を果たしている韓国学術振興財団について、簡単に紹介しておこう。

     韓国学術振興財団(英語名:Korea Research Foundation)は、1979年に公布された学術振興法に基づき、国内の学問研究と国際学術交流の支援・育成を通じた学術文化の発展をはかることを目的として1981年に設立された、政府教育人的資源部傘下の機関である。その活動は、学術研究の振興、国際学術交流の支援、学問後続世代の育成、学術情報構築サービス、学術評価・管理、学術振興政策研究といった幅広い分野にわたっている。報告者がお話をうかがった職員によれば、日本の日本学術振興会に相当する機関であるとのことであった。このうち、学術研究の振興については、学術研究費の支援(先導研究者支援、新進教授研究課題支援、協同研究課題支援、教科教育共同研究支援事業、南北学術交流支援事業、大学付設重点研究所支援)、基礎学問分野の育成・支援(基礎科学研究支援、人文学育成支援、地方大学育成支援)、特定分野の研究の支援(保護学問支援、東・西洋学術名著翻訳支援、マルチメディアを利用した大学講義コンテンツ開発支援事業、学術誌発行支援、学術大会開催支援)を、国際学術交流支援については、国際共同研究支援(大学教授海外派遣研究支援、国際共同研究及び学者交流支援)、海外韓国学支援(海外韓国学講義教授派遣支援、海外韓国学学術会議及び研究支援)を、学問後続世代育成については、奨学支援事業(奨学金と学資貸与、農漁村出身大学生学資貸与、教育学部学生への奨学金等)、学問後続世代研究支援(新進研究人力奨励金支援、ポストドクター研修課程支援、学術研究教授支援)を、学術情報構築サービスとしては、学術研究者情報、研究結果及び研究動向情報、学術研究支援統計情報、学会及び大学付設研究所情報、北米韓人教授情報についてのデータベース化を、学術評価・管理としては、学術誌の評価と研究結果論文の評価及び公開を、学術振興政策研究としては、学術政策及び事業開発研究、学術研究支援運営体制の研究、学術研究支援情報開発の研究を行っている。詳しくは、以下のホームページを参照されたい。

    ・韓国学術振興財団(Korea Research Foundation):http://www.krf.or.kr


     以下、上記の区分とは必ずしも一致しないが、内部資料に基づいて、研究者への支援現況に関する若干の統計を紹介しておこう。


    国立/公・私立大学所属研究者支援状況
    (上段:総額[単位千ウォン]、下段:比率[%])


    国立公立私立その他合計
    199833,793,565
    43.2
    442,207
    0.6
    43,523,230
    55.7
    384,183
    0.5
    78,143,185
    100.0
    199917,126,787
    34.8
    361,000
    0.7
    31,027,142
    63.1
    674,000
    1.4
    49,188,929
    100.0
    200022,584,346
    37.7
    310,700
    0.5
    36,158,437
    60.4
    836,372
    1.4
    59,889,855
    100.0

    首都圏/地方所在研究者支援状況
    (上段:総額[単位千ウォン]、下段:比率[%])


    首都圏地方合計
    199843,461,050
    55.6
    34,682,135
    44.4
    78,143,185
    100.0
    199925,205,737
    51.2
    23,983,192
    48.8
    49,188,929
    100.0
    200031,096,896
    51.9
    28,792,959
    48.1
    59,889,855
    100.0

    人文社会/自然科学大学所属研究者支援状況
    (上段:総額[単位千ウォン]、下段:比率[%])


    人文社会自然科学合計
    199818,562,043
    23.8
    59,581,142
    76.2
    78,143,185
    100.0
    199918,893,593
    38.4
    30,295,336
    61.6
    49,188,929
    100.0
    200021,776,855
    36.4
    38,113,000
    63.6
    59,889,855
    100.0

     韓国での学術研究環境を語る場合、日本以上に、国立大学と私立大学の格差、首都圏の大学と地方の大学の格差、ならびに自然科学系と人文社会系の格差が問題とされることが多く、特に国立大学については、私立大学と比べて数が圧倒的に少ないことを考えれば、このような状況が同財団の支援状況にも反映されていると見ることもできようが、年別の推移と事業内容を見る限りでは、このような不均衡を是正する努力を同財団では行っているようである。


    3)民間財団

     韓国国内の財団・機関としては、社会科学系に限れば、ソナム財団(東アジアを対象とする人文・社会科学)、未来人力研究院等が、海外調査を含む学術研究に対する支援を行っている。その他、ロータリー財団、ハーバード大学燕京研究所等、国外の財団・機関からの援助を受けて海外で学術研究を行うケースもある。

    ・ソナム財団(Seonam Foundation):http://www.seonam.org/(韓国語)

    ・未来人力研究院:http://www.cfhrs.or.kr/(韓国語)


    4)韓国人研究者の意見

     最後に、日本の科学研究費補助金(以下、科研費と略記)を受けての日韓共同研究プロジェクトについて、研究分担者として過去二回このようなプロジェクトにたずさわった経験のあるソウル大学校社会科学大学人類学科全京秀教授のお話を手短に紹介する。


     全教授は、1980年代前半に日韓漁村社会の共同研究で、1998年度から2000年度にかけて韓国済州島と日本の南西諸島の比較研究で、いずれも科研費の支援を受けた共同研究プロジェクトに参加された。いずれも、日韓両国での現地調査を共同で行うプロジェクトであったが、韓国人研究者の日本への渡航や、日本人研究者の韓国への渡航については、手続き上大きな問題はなかったという。一方、研究の手法との関連で、特に最近行ったプロジェクトでは、言語の問題を克服するためにいくつかの対策を講じたそうである。全教授の専攻である人類学的な現地調査の場合、現地語が多少できるくらいでは満足のいく調査を行うことが難しいとされるが、このプロジェクトでは、日本側と韓国側の研究分担者数を合わせて一対一でカウンターパートを決め、現地調査でさらに各組に一人ずつ通訳を付けたばかりでなく、自国での調査にあたっては相手国研究者をサポートするのに専念するようにしたとのことである。また、現地調査の準備段階から相互に密に連絡をとり、例えばカウンターパートに資料・文献のリストを送り、それをチェックしてもらって必要に応じて現物を送るなど、準備にも万全を期したという。さらに、研究成果の整理と公開については、毎年両国でシンポジウムを開催し、最終年度に報告書を作成した。ただし、当時は研究期間が三年までしか認められていなかったので(国際学術研究)、満足のいく成果を出すには必ずしも十分な時間をかけることができなかったとのお話であった。言語の問題については、韓国でも、解放前に日本の植民地体制下で初等教育を受けた世代の場合は、日本語を母国語に近い水準で使える研究者が多く、逆に若い世代については、日本留学の機会が急増しており、全教授の世代が抱える独特の問題なのかも知れないともおっしゃっていた。さらに、韓国で同種の共同研究プロジェクトを行う場合との違いとして、科研費のプロジェクトでは、研究報告書を出しても反応が薄く、特に評価の方法に問題を感じたそうである。韓国の学術振興財団の研究支援では、研究成果の評価を専門分野の研究者に依頼し、不備が指摘された場合には報告書の再提出等のペナルティも課され、また評価の結果がその後のプロジェクト審査にも反映されるとのことである。質の高い研究を奨励するために、日本の科研費においても、研究計画をimproveする過程を置くこと等を含めて、評価をより厳しく行うことが望ましいのではないかとのご意見であった。

    (2002年3月25日脱稿)

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    Last updated: 26 Mar, 2002
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    【総括班事務局から】
    各機関の電話番号・FAX番号については、調査時点のものなので、連絡をとる場合は現地へ確認後、お願いします。