1. 研修の概要 詳細
- 研修期間:
- 2018年8月1日(水)~2018年8月31日(金)
- 午前10時00分 ~ 午後5時40分 (土日および8月13日~15日は休講)
- 研修時間:
- 120時間
- 研修会場:
- 貸し会議室 日本研修センター十三
本研修は2018年8月1日(水)から2018年8月31日(金)までの20日間,1日あたり6時間,合計120時間実施した。
会場は,貸し会議室 日本研修センター十三を利用した。
2. 講師 詳細
- 主任講師:
- 塩谷 茂樹(しおたに しげき)大阪大学言語文化研究科教授
- ネイティブ講師:
- 何 菊紅 (カ キクコウ)大阪大学言語文化研究科言語社会専攻大学院博士前期課程大学院生
- 文化講演者:
- 主任講師、講師が担当
3. 教材 詳細
- 『土族語文法』(塩谷茂樹,何 菊紅 著)
土族語・民話方言(民話土族語)無文字言語のため、教材はすべてラテン文字表記で主任講師と講師の二人で作成した。まず基本となる『土族語文法』は、文字と発音、格語尾、人称代名詞、再帰所有語尾、指示代名詞、名詞述語文、動詞述語文、各種動詞語尾、アスペクト表示、定型表現、文末助詞、接尾辞など全21課からなる。また『土族語例文・会話』は、それぞれ例文が全20課、会話が全21課からなり、各例文に見られるキーワードとなる一つの単語を取り上げ、『土族語語彙』というカタチで編纂した。さらに『土族語作文』は、等位copula、存在copula、感嘆文、未来、現在の継続習慣、過去、過去からの継続、定型表現など、文法事項のテーマ別にねらいを設定し、全27課の日本語から民話土族語への作文問題を作成した。
4. 受講生詳細 詳細
受講生は学部生 1 名、大学院生 3 名、大学非常勤講師 1 名の合計 5 名で、全員がモンゴル語既習者であった。また受講動機は、モンゴル系の孤立語で学ぶ機会が皆無の希少言語であるとか自分の専門言語との関連性といったアカデミックな理由が大半を占めた。1 名が家庭の事情で途中出席できなくなったが、残りの4 名が出席良好、成績優秀で無事修了した。
5. 文化講演 詳細
- 8月7日(火):「民和土族概況」
- 民話土族語が話されている地域の土族の地理的位置・人口・地形・機構・農作物を始め、広く衣食住に関して概況を説明した。受講生からは、とてもわかりやすいと好評であった。
- 8月17日(金):「ナドン祭り」
- 民話土族に古くから伝わるナドン祭りについて、伝説・実施地域・期間を始め、祭りの意義とその由来を説明した。受講生からは、中国の民間信仰との関連性の指摘があった。
- 8月24日(金):「民話土族語の特徴」
- 民話土族語の特徴を、母音・音節・アクセント・子音・文法の5つの点から、特にモンゴル文語・現代モンゴル語と比較しながら、さらに詳細な項目別に分類し概説した。受講生からは、今後の研究の参考にしたいとの意見が出された。
6. 授業 詳細
2018 年8 月1 日(水)~2018 年8 月31 日(金)までの週5 日、1 日6 時間、全4 週、合計 120 時間で行われた。120 時間の内訳は、基本的に1課1時間の原則を順守し、「文法」が全 21 課 21 時間、「作文」が全 27 課 27 時間、「会話」が全 21 課 21 時間、「例文」だけは、モンゴル文語・現代モンゴル語との比較を念頭に置いて、1 課2 時間を要して詳細に説明を加え、全 20 課 40 時間を費やした。また 4 週の各週最終日の 5 時限目に、授業の内容の理解を問う「小テスト」を計 4 回 4 時間、さらに 1 週から 3 週の各週最終日の 6 時限目に、文化講演を計3 回 3 時間、4 週目の研修最後の授業に「総括」として1 時間、民和土族語のまとめとして説明を補足した。その他、2 週から4 週にかけて、各週 1 回、中日3 日目に、「内容調整」と題し、受講生からの質疑応答の時間を、計 3 回3 時間設けた。
7. 研修の成果と課題 詳細
今回の言語研修のねらいは、当初から一貫して、民和土族語における「基礎語彙の習得」と「文法体系の概観」の 2つであった。そのため、とりわけ「例文」に見られる各文のキーワ ードとなる単語(基礎語彙)の学習には、できる限りその来源を明らかにすべく十分時間を割いて丁寧に説明した。受講生全員がモンゴル語既習者であったため、特にモンゴル起源の語彙に対しては、民和土族語への変化発展の過程も併せて説明した。一方、もう一つの「文法」の概観に関しては、従来の「文法」書そのものの学習の上に、さらに文法事項のねらいをテーマ別に設定した日本語から民和土族語への「作文」問題を同時に併用させることによ って、当該言語の文法体系をより具体的かつ総括的に概観できるよう工夫した。具体的に言えば、例えば、2018 年8 月1 日(水)の研修初日の 1 時限に民和土族語のまず「文法」を教え、その直後の2 時限目、3 時限目にすぐに日本語から民和土族語への「作文」の授業に入るといった方法である。この教授法は、当初から受講生に好評であり、受講生の日頃の積極的な学習も功を奏し、4 週の各週最終日に行った授業内容の理解を問う 4 回の「小テスト」の成績が、平均正解率 90%を超える高得点であったことは、研修成果の一つとして特筆すべき点であろう。ちなみに、最初の 2 回の小テストは、語彙編 25 題、文法編 25 題の合計50 題(各2 点)の問題を、最後の2 回の小テストは、語彙編20 題、文法編 20 題、さらに書き取り(講師が読み上げる土族語文をローマ字で書き写す問題)2 題、日本語訳(講師が読み上げる土族語文を日本語に訳す問題)2 題の合計44 題(語彙・文法各 2 点、書き取り・日本語訳各5 点)の問題を、それぞれ作成した。 さらにもう一つの成果と言えば、講師の方で予め準備した 4 冊の教材内容は、研修期間中に過不足なくすべて終了し、質量ともに受講生に好評だった点である。 一方、民和土族語の教材は、海外でも数少なく、日本ではこれが初めての試みであった。そのため、等位・存在 copula や各種の動詞終止語尾に見られる主観形式:客観形式の詳細な弁別方法は何か、また無意志(非制御non-control)動詞の一部に見られる対応関係の不均衡さをいかに説明すべきか、さらには客観形式表示動詞(常に客観形式のみを取る動詞)を民和土族語の文法体系の中でどのように位置づけるべきかなど、いくつかの問題点も今回の研修で明らかとなったが、これらは今後に残された課題である。
8. おわりに 詳細
120 時間の土族語言語研修が、当初の計画通り無事成功裏に終了したことに対し、受講生の皆さんを始め、AA 研の先生方及び事務職員の方々に心から感謝申し上げます。
(塩谷茂樹)
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