1. 研修の概要 詳細
- ○研修期間:
- 2016年8月16日(火)~2016年8月29日(月)
- 午前10時00分 ~ 午後5時00分 (土日は休講)
- ○研修時間:
- 50時間
- ○研修会場:
- 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
本研修は2016年8月16日(火)から2016年8月29日(月)までの10日間,1日あたり5時間(午前2時間,午後3時間),合計50時間実施した。 会場は,東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所マルチメディア会議室(304)およびマルチメディアセミナー室(306)を利用した。 8月22日(月),8月29日(月)には話者を講師とした文化講演も行った。29日はさらに民俗学の専門家と年中行事の八月踊りの踊り手も招待した。
2. 講師 詳細
- ○主任講師:
- 下地理則(しもじ みちのり)(九州大学大学院人文科学研究院 准教授)
- ○講師:
- 新永悠人(にいなが ゆうと)(成城大学 非常勤講師)
- ○ネイティブ講師:
- 仲間博之(なかま ひろゆき)(加計学園参与・沖縄支局長)
- 直三男也 (すなお みおや)
- 文化講演者:
- 渡聡子(宇検村教育委員会 学芸員)
- 踊り手:
- 村石厚子
- 菅井えつ子
3. 教材 詳細
- 『琉球語調査ハンドブックHandbook of the Linguistic Fieldwork of Ryukyuan』(下地理則・新永悠人)
- 『奄美・宮古簡易語彙集A concise dictionary of Amami Ryukyuan and Miyako Ryukyuan』(下地理則・新永悠人)
『琉球語調査ハンドブック』(以下,『ハンドブック』)の前半は『言語学大辞典』の琉球語の記述の抜粋である。本研修の主眼はフィールドワークメソッドを身に付けることであるため,本研修の調査対象言語(宮古語池間方言・奄美語湯湾方言)についての前提情報は与えず,周辺の言語の概要を参照可能にすることを目的とした。『ハンドブック』の後半は,語彙調査の方法をまとめた「語彙調査のガイド」,フィールドにおいて話者が質問すべき項目を網羅した「文法調査票」,例文の提示の仕方をまとめた「例文の表記とグロス」から成る。研修に用いた語彙調査票は「語彙調査のガイド」に記載された意味領域の一部(社会関係・身体・動作・状態)に関する語彙から作られた。『ハンドブック』の最後には言語学に馴染みの無い受講生のために言語学の概念に関する簡単な用語集を付けた。
『奄美・宮古簡易語彙集』(以下,『語彙集』)は,社会関係・身体・動作・状態に関する奄美語湯湾方言と宮古語池間方言の語彙と例文をまとめたものである。
4. 成果物 詳細
5. 受講生詳細 詳細
受講生の構成は,学部生5名,博士前期課程在籍者3名,博士後期課程在籍者3名の計11名である。琉球の方言を既に調査した経験はあるけれど,さらにその技術を磨きたいと考える者,日本語・琉球語以外の言語を専門としながらフィールドワークの経験は少ない(もしくは皆無の)者,言語学は専門ではないが琉球歌謡などに興味があり,将来琉球でフィールドワークを行いたいと考えている者など,多様な経験・受講動機を持つメンバーが集まった。全員が最後までほぼ無欠席で(2名が通院および体調不良のため1日だけ欠席した),登録した受講生全員が無事研修を修了した。
6. 文化講演 詳細
8月22日(月),8月29日(月)の2回に渡り,文化講演を開催した。1回目は,宮古島池間方言ネイティブ講師の仲間博之氏が伝統歌謡に関する講演を行い,最後は受講生全員が輪になって歌謡に合わせて一連の踊りを踊った。2回目は,奄美大島宇検村教育委員会の学芸員をされている田中聡子氏を招いて地元の年中行事の紹介をしていただき,その後,奄美大島湯湾方言ネイティブ講師の直三男也氏が当地の伝統舞踊である八月踊りの説明を行い,二名の踊り手(村石厚子氏,菅井えつ子氏)と共に八月踊りの実演を行った。最後は,前回と同様に受講生一同輪になって,八月踊りを踊った。受講生は,伝統舞踊の独特な足遣いに戸惑いつつも,楽しそうに踊りに参加していた。
写真1.8月22日の風景
写真2.8月29日の風景
7. 授業 詳細
授業は前半1週間に宮古島池間方言を,後半1週間に奄美大島湯湾方言を調査対象としたフィールドワークの実践練習とした。その具体的手順は,まず2つの教室を確保した上で,1つの教室にはネイティブ講師に滞在していただき(「調査室」と呼ぶ),もう一方の教室には受講生が控え(「作戦室」と呼ぶ),調査準備や調査結果をまとめる場とした。受講生は4つの班に分かれ,各班が交替で調査室に伺い,それぞれ一回に15分から30分程度の質問を行うことを繰り返した。初日に録音機器の基礎知識を伝えた後は,学生の様子を見つつ,作戦室において各班の疑問に個々に回答した。IPAが不得意(もしくは未習)の学生には,上記2方言にかかわる音声について希望者に対して簡素なIPA講習会も開催した。最終的に,各自に文法現象(代名詞,動詞形態論,コピュラ文など)を一つずつ担当してもらい,池間方言と湯湾方言(および各自の知る言語)との異同をまとめてもらった。また,語彙と例文のデータは辞書作成ソフト(LexiquePro)に入力してもらった。
8. 研修の成果と課題 詳細
研修は一人の脱落者も出すことなく,成功裡に終わったと言える。受講生の熱意も高く,率先して様々なフィールドワークメソッドを身に付けて行ったようであった。琉球語の需要は高い。今後,別の形でレギュラーに行ってもよいかもしれないとさえ感じた。今後,方言記述の分野で活発になっていく少数危機方言のフィールドワークの人材を育てるうえでも,今回のようなやり方はひとつのモデルケースとなると確信する。
9. おわりに 詳細
ネイティブ講師の多大な労力と,受講生の能動的な熱意のおかげで,実りある言語研修にすることができた。心より感謝申し上げる。願わくば,今回の経験をもとに,各自が自らのフィールドを開拓し,様々な学問的調査を実践することを心から願う。
(下地理則)
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