1. 期間と時間,場所 詳細
- 1) 期間
- 8月6日(火)~9月6日(金)の21日間
- * 土曜日・日曜日とお盆(8月13, 14, 15日)は休み
- 2) 授業時間
- 1日6時間(1時限は60分,計125時間)
- 午前:① 10:00 ~ 11:00,② 11:05 ~ 12:05
- 午後:③ 12:45 ~ 13:45,④ 13:50 ~ 14:50,⑤ 14:55 ~ 15:55,⑥ 16:00 ~ 17:00
- * 9月6日(金)のみ5時間授業
- 3) 場所
- 1日6時間(1時限は60分,計125時間)
- 大阪大学箕面キャンパス(大阪府箕面市粟生間谷東8-1-1)
- E棟103教室(8月6日,7日)
- E棟301教室(8月9日~9月6日)
2. 講師 詳細
- 主任講師
- 中嶋 善輝(大阪大学・大学院言語文化研究科・講師)
- Juliboy Eltazarov(トルコ・ムーラ大学チュルク言語文化学部・客員教授,元サマルカンド国立大学教授)
- 副主任講師
- 藤家 洋昭(大阪大学・大学院言語文化研究科・准教授)
- 文化講演者
- 1日6時間(1時限は60分,計125時間)
- 菅原 睦(東京外国語大学大学院総合国際学研究院・准教授)
- 菅原 純(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)
3. テキスト 詳細
- #1.『ウズベク語会話 対話テキスト』(著者;Juliboy Eltazarov, Zarnigor Donaboyeva)
- ◆ 内容別に12課に別れた会話集(60p.)。ウズベク語本文に日本語と英語が対訳してある。エルタザロフと同氏の娘ドナボイェヴァによる共著。研修準備のために早めに来日(7月30日)したエルタザロフと,10日間の観光で同日来日したドナボイェヴァが,来日後録音した音声データを受講生に配布。
- #2.『ウズベク語リーダー』(著者;Juliboy Eltazarov, Zarnigor Donaboyeva)
- ◆ 内容別に7課に別れた読本集(69p.)。エルタザロフと同氏の娘ドナボイェヴァによる共著で,両氏による録音データを受講生に配布した。
- #3.『明解ウズベク語文法』(著者;中嶋善輝)
- ◆ 内容別に5部に別れたウズベク語文法書(165p.)。『明解カザフ語文法』(2004年カザフ語研修テキスト3)の枠組みに沿って,ウズベク語を名詞類,動詞類,不変化詞類に分類して解説した。
- #4.『ウズベク語基礎例文1000』(著者;中嶋善輝)
- ◆ ウズベク語の短い文を1000並べた読解トレーニング帖(80p.)。1000個の例文は未習の文法事項が通し番号を遡って現れないよう配列。文の分析力をストレスなく高められ,同一文法事項の反復により記憶への堅固な定着を意図。配布した日本語訳文を併用すれば,作文練習の回答集ともなる。
- #5.『ウズベク語・日本語小辞典』(著者;中嶋善輝)
- ◆ ラテン文字正書法に則った本格的なウズベク語辞典(390p.)。English-Uzbek, Uzbek-English Dictionary (A. A. Xolmuradov, R. X. Aziziv, 2007) のUzbek-Englishの見出し語を核に,語彙を補いながら製作(見出し語数12,600)。独自に,品詞の注記や語彙の来源(ロシア語綴りをなぞった語にはアクセント記号付き)を付した他,不規則変化のある語にはその都度注意書きを施した。
4. 受講生 詳細
全受講生は5名であった。その内,大学生が2人(共に関東から。その内1名は東京外国語大学の単位履修生),一般の方が3名である(その内,2名は関東から,1名は関西在住)。年齢別では,20代が2人,30代,40代,50代がそれぞれ1人ずつであった。そして,ウズベク語の学習経験者は3名,同系のウイグル語の学習経験者は1名であった。ウズベキスタン訪問歴のある人は1名であった。
なお,関東からの受講生の内,2人は実家もしくは親戚の家に宿泊し,2人はマンスリーアパートをそれぞれ借りて通学していた。
皆勤の方はいなかったものの授業の参加率は概して良く,5名中4名は修了証書を取得することができた。修了証書を得られなかったのは関西在住の方であったが,親族の介護が重なり休みがちにならざるを得なかったものである。それでも受講生全員,ウズベク語の学習には大変熱心で,最終試験(9月4日(水)11:00より)では全員合格点に達した。
5. 授業 詳細
授業は,他の研修同様,常に日本人講師とインフォーマントとが連携して進行した。
初日(8月6日)の1, 2限は「チュルク語概説」として副主任講師の藤家が担当した。その中で藤家は,アルタイ諸語とチュルク諸語の関係や,チュルク諸語におけるウズベク語の位置関係,現代ウイグル語との類似点や相違点などについて述べた。
初日の3限以降は,中嶋とインフォーマントであるエルタザロフが授業進行を行った(文化講演を除く)。受講生は,ウズベク語および同系のウイグル語学習経験者が4名いたこと,そして本研修がウズベク語を(キリル文字ではなく)ローマ字による新正書法で学ぶため,そもそも文字による障害は少なく,当初から割合い速い速度で進行した。
授業自体は基本的にテキストの課に沿って,エルタザロフがテキストを読み,文法説明を中嶋が解説する形式で行った。また,課の内容に応じては,エルタザロフがインターネットで動画を示しながら,ウズベクの世界を視覚的に理解できるよう配慮した(例えば,各種ウズベク料理の作り方や,記念日の光景(独立記念日やクリスマス(アルチャ・バイラミ等),ウズベキスタンの世界遺産やタシケント市等の情景など)。
また,授業が進展するにつれ,受講生のウズベク語の分析力の確認や文章理解力を鍛えるため,本文を翻訳してもらう形式に順次移行した。また,ウズベク語のアウトプット能力の向上を図るため,ウズベク語による質疑応答をしたり,ウズベク語作文の宿題を適宜課すようにした。
このようにして,本研修用に編んだテキスト4冊(辞書は除く)は,研修最終日には一通り学び終えるに至った。
従って,最終日の授業は先ず,受講生の要望に従ってウズベク語のキリル文字アルファベットのブロック体と筆記体を講義した。その後,本研修での学習事項がどれほど実践で通用するかを力試しするため,市販の民話を1つ選び,プリントを配布して講読し,本研修を締めくくった。なお,9月4日(水)11:00から筆記試験を行った。試験範囲は『ウズベク語会話 対話テキスト』全体とした。試験は100点満点で以下のような形式・点数配分とし,予め1週間ほど前に模擬問題を1つ作って配布し周知した。
大問1) ;ウズベク語の単語を日本語で答える問い(各1点×20問)
大問2) ;日本語の単語をウズベク語で回答する問い(各1点×20問)
大問3) ;ウズベク語文の日本語訳(各5点×6問)
大問3) ;日本語文のウズベク語訳(各5点×6問)
得点は,90点台が1人,80点台が3人,60点台が1人で,受講生全員合格点を獲得することが出来た。
6. 文化講演 詳細
文化講演は,東京からお招きした以下2名の講師により行われた(司会者は共に藤家)。
- 1) 菅原 睦氏
- 開催日時:8月30日(金),14:55 ~ 17:00
- タイトル:「ウズベク語の歴史とチャガタイ語」
- ウズベク語(と現代ウイグル語)の祖であるチャガタイ語成立の時代背景を,カラ・ハーン朝のイスラム受容,モンゴル帝国の支配,ティムール朝,遊牧ウズベクの移住,と4段階と分類。チャガタイ語文学のいくつかのジャンルを概観し紹介した。終わりに,チャガタイ語とウズベク語,ウイグル語,トルコ語を対比することで,その類似点や相違点を示した。
- 2) 菅原 純氏
- 藤開催日時::9月4日(水;14:55 ~ 17:00)
- タイトル:「ヤズマの時代 中央アジア・テュルク語書写文化史の散歩」
- ヤズマとは,少なくとも現代ウイグル語で「(手で)書かれたもの」を意味する語と紹介し,その上で,書物が活字で印刷されるようになり,チャガタイ語からウズベク語と現代ウイグル語という2つの「民族語」に分岐するまでの,手書き文書の特徴について概観した。講演の最後には,氏の所蔵する手書き文書の実物が複数紹介された。
7. おわりに 詳細
この度のウズベク語研修は,受講生の方々の熱心さと,外国人に対するウズベク語教授経験豊富なエルタザロフ氏に助けられて,非常に内容の濃い,印象深い授業を行うことが出来た。元々受講生にウズベク語(~ウイグル語)の学習経験者が多かったこともあるが,なかった人も含め,ウズベク語の初級から中級程度の文なら,辞書を頼りに正確に分析し翻訳することが出来るようになったし,ウズベク語での質疑応答にも割合短時間で返答することが出来るようになった。最終試験でも全員が90点代から80点代を中心に合格点(60点以上)をたたき出すレベルとなり,今後受講生は自らの興味に従って自立してウズベクの世界を歩むことができるという確信を得るに至った。
授業では,エルタザロフ氏が積極的にインターネットの画像(静止画や動画)を活用し,受講生の視覚に訴える印象的な授業展開行ってくれた。言葉だけでは伝わりにくい異国ウズベキスタンの有様を,日本にいながらにして,より明確に伝達することができた。このことは,本研修を預かるものとして大変心強かった。
本研修の授業進行の問題点と言えば,(受講生には了承済みとは言え)おそらく進行速度が若干速かったろう。用意したテキストはほぼ全て講義し終えることが叶ったとは言え,もう少し作文の時間を多く作ったり,書き取りを多めに取り入れるなど,授業中によりたくさんの語彙が記憶に定着するような進行をすべきではなかったかと反省が残った。また,講師にとっては研究室のある本部校であり,資料保管やコピーの作成に好都合で,会場設営にも便利の良い箕面キャンパスも,受講生の方々にとっては通学に不便であったろう。大阪の中心部のようなアクセスの良い会場の手配を,早期に出来ていたらと思う。
さて,この度も木本様を初めとするAA研の皆様方には,並々ならぬご支援を賜った。お陰で本研修も無事に締めくくることが出来たが,研修の段取りから,インフォーマントの招聘を含め,長期におよぶ煩雑な業務は,ご苦労の多いものであったことと思われる。この場をお借りして,改めて深甚なる感謝を申し上げる次第です。
(中嶋善輝)
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