海外学術調査フォーラム

連続ワークショップ 『フィールド・サイエンスと新しい学問の構築』第三回 講演

「医学踏査隊の遭遇する問題と対応」
  田島 和雄(愛知県がんセンター研究所、疫学予防部、部長)

 報告者は過去20年間に亘って実施してきた二つの研究課題、「環太平洋地域におけるモンゴロイド集団の免疫遺伝学的研究」、および「日本・中国・韓国における消化管がんの予防を目指した三国共同研究」に取り組んできた。報告者が経験してきた具体的な調査活動を通して、㈰国際共同研究の原点でもある調査者と被調査者の相互理解の確保、および、㈪ヒト集団を対象としたフィールド調査における倫理的対応の必要性、などについて言及してみたい。主な報告内容を以下のように箇条書きに示すが、これまでに報告者が遭遇した問題への対応は医学領域に限定されており、試行錯誤と模索の繰り返しで、残念ながら普遍的な対応策を持ち得ないことを始めに明言しておきたい。


Ⅰ国際共同研究の原点は相互理解から

  1. 調査対象国の受け入れ体制:研究目的に対する対象国の行政機関の理解と調査協力、収集した生体材料の国外持ち出しの許可申請と受諾可能性。
  2. 共同研究者や調査協力者との信頼関係:研究目的の理解と協力体制の確保、生体材料収集に対する共同研究者や現地の被調査者の理解と協力、さらに、研究成果の報告をめぐる共同研究者との契約。
  3. 研究者の安全性確保:日本の外務省と対象国の保安機関の支援、踏査隊の安全確保のための一般的情報、その情報源と収集方法などに関する教書

Ⅱフィールド調査の倫理的対応の必要性

  1. インフォームドコンセント:諸外国における被調査者集団から受諾を得る課程における研究調査の目的、方法、期待される成果などに関する情報伝達と理解の不十分性。
  2. 情報の機密保持:個人の同定のみならず集団としての特性情報(民族固有の情報)の機密を確保することの困難性。さらに考古学資料の所有権と帰属性の曖昧性。
  3. 調査協力者の利益と損失:研究者の興味、努力、洞察力などによって得られた研究成果の情報公開がもたらす客観的な損益問題。さらに、国、地域、特定集団、個々人への影響と損益の有無。